日本心臓血管外科学会雑誌
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[末梢血管]
腎静脈より中枢に移動した下大静脈フィルターに対する開胸開腹下での回収例
小林 豊川上 敦司辻 龍典
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2018 年 47 巻 6 号 p. 303-306

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抄録

深部静脈血栓症を伴う急性肺塞栓症は突然死をきたす重篤な疾患であり,その再発予防に下大静脈フィルターが留置されることがある.しかしながら留置による合併症も報告されており,適応について見直されてきている.今回われわれは下大静脈フィルター挿入直後に位置移動を認め,開胸開腹下に摘出した症例を経験したため,その適応についての考察も含めて報告する.症例は53歳,女性.下肢深部静脈血栓症に対して回収可能型下大静脈フィルターを留置された.抗凝固療法を施行したうえで後日回収すべく位置を確認したところ,下大静脈フィルターは腎静脈より中枢に移動していた.経皮的に回収を試みたが不可能であったため,直視下に摘出すべく当科に紹介となった.画像診断では肝静脈から腎静脈にかけて下大静脈フィルターが存在していた.直視下に確認しつつ回収する方針として当院外科,心臓血管内科と合同で手術を施行した.右第7肋間付近から胸骨下端下方に向けて皮膚を切開,肋骨弓を切断して肋間から胸腔内に到達し胸腔内で下大静脈を確保した.横隔膜を切開して腹腔内の剥離を進めた.肝臓裏面の静脈叢を尾状葉枝を含めて丁寧に切離して左右腎静脈まで露出した.下大静脈フィルターは触知可能であり,上端は尾状葉枝の直下,下端は右腎静脈内に認めた.透視下で用手的に静脈との接合を外してカテーテルでの回収を試みたが不可能であったため,静脈を単純遮断することとした.下大静脈を各枝で単純遮断して静脈を切開すると,下大静脈フィルターは中枢側先端が静脈の内膜に食い込み,末梢側のフックの一部は静脈を穿孔していた.慎重に各所を剥離して静脈を修復した.術後の経過は良好で,合併症なく独歩で退院となった.

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