2019 年 48 巻 1 号 p. 43-46
症例は70歳男性.他院で食道癌化学療法中(5FU+CDDP)に腹痛の原因精査目的で造影CTを施行されたところ,偶然上行大動脈後面にlow-density massを認めた.血栓を疑いヘパリンの投与を開始するも腫瘤の縮小傾向はなく,摘出術目的に当院転院搬送となった.腹痛は自然軽快し,その他明らかな塞栓症状は認めなかった.手術は低体温循環停止下に血栓摘除術,大動脈壁修復術を施行した.術中の経大動脈エコーでは,血栓が血流によって浮動する様子が観察できた.術後経過は良好で第18病日に退院となった.上行大動脈内血栓症は稀な疾患であり,その多くは末梢動脈の塞栓症状で発見されるが,無症候で発見される症例はきわめて少ない.今回,塞栓症状なく偶然発見された上行大動脈内血栓症に対して,血栓除去術を施行し良好な結果を得たので報告する.