2019 年 48 巻 2 号 p. 152-156
腹部骨盤部領域の手術における尿管損傷は約1%に起こるといわれている.尿管損傷は術中の直接損傷だけではなく,術中に判断できない症例や遅発性に発症する症例があり,早期診断に難渋することもある.症例は84歳男性,腹部大動脈瘤に対し開腹人工血管置換術を施行した.術中腸骨動脈と尿管との癒着はなく,術中尿管の直視下の確認や剥離は行わなかった.術後5日目に腸閉塞を発症し,イレウスチューブ挿入にて治療を行ったが,術後11日目に再度腹部膨満が増悪したため造影CTを施行したところ,左腸腰筋に接して周囲に造影効果のある内部不均一な55×26 mm大の低吸収域を認めた.腸腰筋膿瘍の炎症波及に伴う麻痺性腸閉塞と判断し,カルバペネム系の抗菌薬で治療を開始した.しかし,腹部膨満の改善に乏しく,術後13日目に単純CTを撮影したところ,左水腎症と前回CTで膿瘍と判断した占拠性病変内に造影剤の残留を認めた.これらの所見より尿管損傷が疑われ,経尿道的尿路造影で左尿管損傷による尿漏,尿瘤と診断し,尿性腹膜炎による腸閉塞と判断した.経皮的腎瘻造設による尿のドレナージにより症状改善を得た.術後56日目に自宅退院となり,術後6カ月のCTでは尿瘤は完全に消失した.幸いにも経過中人工血管への感染は認めなかった.今回,腹部大動脈人工血管置換術後に,遅発性の尿管損傷を合併した症例を経験したので報告する.