日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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48 巻 , 2 号
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巻頭言
原著
  • 青木 雅一, 降籏 宏, 清水 寿和, 住吉 力, 長野 博司, 森田 英幹, 川浦 洋征
    2019 年 48 巻 2 号 p. 97-102
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    [背景]開心術周術期の心原性脳梗塞の予防として左心耳を閉鎖することが重要視されている.左心耳閉鎖の方法についてはこれまでに縫合閉鎖,デバイスによる閉鎖や切除などさまざまな方法で行われているが左心耳への血流遺残や再開通による血栓形成などの問題があり,議論の余地がある.[対象と方法]2016年4月から2017年12月の期間で開心術と同時にステイプラーによる左心耳切除を行った57例を対象とし,ステイプラーによる左心耳切除の手術成績と問題点を明らかにし,その妥当性について検討した.左心耳が完全に閉鎖されているかどうかは経食道心臓超音波(TEE)で確認した.[結果]主たる手術の内訳はOff-pump CABGが23例,Combined CABGが4例,Isolated Aortic Surgeryが9例,Combined Valve Surgeryが19例,Congenitalが2例であった.平均年齢69.6±8.8歳,男性46例,左心耳切除に使用したステイプルは45 mmが52例(91.2%),60 mmが5例(8.8%)であった.左心耳切除のタイミングはOff-pump CABGではグラフト吻合の前に行い,人工心肺使用症例では左室ベントを挿入する前に行った.左心耳切除は全症例(100%)で心拍動下に施行可能であった.左心耳が遺残していて追加切除が必要となったのが14例(24.6%).切除ラインからの出血のため止血目的で追加縫合を要したのが7例(12.3%)であった.またステイプラーに冠動脈を巻き込んだ症例を1例認めた.左心耳切除に要した平均時間は6.1±3.2(1.5~15.2)分であった.術後心房細動(POAF)を25例,術後脳梗塞を1例(POAFを伴わない),出血再開胸を1例,入院死亡を3例に認めた.[結語]ステイプラーを使用した左心耳切除は心停止を必要とせずに短時間で施行可能であり,再開通による血栓形成がない方法である.ただし,左心耳が遺残する可能性や冠動脈を閉塞する可能性があるため十分に確認しながら行う必要がある.

  • 阿部 恒平, 朴 栄光, 吉野 邦彦, 柳澤 裕美
    2019 年 48 巻 2 号 p. 103-106
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    [背景]Endoscopic vessel harvesting(EVH)は,CABGにおける低侵襲グラフト採取法である.しかし,EVHは技量を習得するまでのラーニング・カーブを要し,不適切な手技は静脈へのダメージ増大,静脈グラフトの開存性低下,長期予後への影響を来す.Off-the-job trainingはこのラーニング・カーブを短縮できると期待される.今回イービーエム社が大伏在静脈(SVG)採取モデルを新開発し,その効果を検証した.[目的]EVHシミュレータを用いて集中トレーニングを行い,その臨床効果を検証すること.[対象および方法]EVH練度の低い修練医1名を対象とした.EVHシミュレータで内視鏡のセットアップから剥離操作までを連続20回行い,終了後にEVHを実臨床で1例行った.トレーニング施行前後に施行したEVH症例を,セットアップにかかる時間,内視鏡による視野確保,剥離操作,血管の切離の項目を5段階評価にした表を用いて比較した.[結果]EVHシミュレータトレーニングにかかる時間は10例でほぼ安定化した.シミュレータトレーニング前後の実臨床では,各項目で向上した.[考察]シミュレータによるoff-JTでは,適切なシミュレータ,指導者,研修の明らかな目的が,効果的なトレーニングを行う上で重要である.今回指導者の元での集中EVHシミュレータトレーニングは臨床の技量を向上させるのにたいへん有用であった.[結語]新開発のEVHシミュレータを用いたトレーニングは,実臨床施行前の有効な練習方法である.

症例報告
[先天性疾患]
  • 富永 磨, 小宮 達彦, 島本 健, 野中 道仁, 境 次郎, 北浦 順也, 古市 吉真, 陣野 太陽, 菅谷 篤史
    2019 年 48 巻 2 号 p. 107-110
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    症例は72歳男性.大動脈弁狭窄症で経過観察されていたが,胸部絞扼感の精査で冠動脈3枝病変を指摘され,手術目的で紹介となった.術中,大動脈弁,大動脈内膜,冠動脈に黒色変性を生じており,大動脈弁の黒色部には高度の石灰化を,冠動脈黒色部には石灰化を伴う狭窄病変を認めた.術中所見より再度病歴を聴取し,既往歴,身体所見からきわめて稀な疾患であるアルカプトン尿症の診断へ至った.現在治療法は確立されていないが,アスコルビン酸大量投与を行い,病勢の遅延化を行い,現在良好に経過している.

[成人心臓]
  • 松濱 稔, 有村 聡士, 佐々木 健一, 國原 孝
    2019 年 48 巻 2 号 p. 111-114
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    右冠動脈肺動脈起始症は稀な先天性心疾患であり無症状で偶然発見されることが多い.心停止を引き起こした報告もあるため発見時には手術介入が推奨されている.今回,労作時胸痛を主訴とする70歳男性に精査を行ったところ同疾患と診断された.経過観察中に症状が悪化し,同時に指摘されていた大動脈弁狭窄症も進行したため,右冠動脈の大動脈への植え替えおよび大動脈弁置換術が施行され,その術後経過は良好であった.術後外来受診時には症状は消失し,負荷心筋シンチグラフィーで術前認めていた虚血領域も消失した.

  • 在國寺 健太, 水野 明宏, 小川 辰士, 齊藤 慈円, 須田 久雄
    2019 年 48 巻 2 号 p. 115-118
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    大動脈弁位感染性心内膜炎は弁輪部膿瘍などの構造的破壊を来しやすく,大動脈弁置換術が一般的な手術法である.しかし,大動脈弁形態の理解がすすみ,感染性心内膜炎においても大動脈弁形成術の報告が散見されるようになっている.今回われわれはα-Streptococcusを起因菌とする大動脈弁位感染性心内膜炎に対する大動脈弁形成術を施行し,良好な結果であったため報告する.症例は50歳男性,2カ月前からの不明熱のため当院を紹介された.経胸壁心臓超音波検査(UCG)で大動脈弁位感染性心内膜炎と診断し,経食道心臓超音波検査(TEE)で右冠尖(RCC),無冠尖(NCC)に疣贅を認めたが,大動脈弁逆流(AR)はmildであった.約1カ月の抗生剤治療により熱型,炎症反応ともに改善したがARは徐々に進行し手術の方針となった.大動脈弁を観察するとNCCの弁腹に穿孔,RCCの弁尖先端部に疣贅を認め,RCCの一部は裂開していた.疣贅を慎重に除去した後,NCCの穿孔を自己心膜で修復し,RCCの裂開部は6-0ポリプロピレン糸で直接縫合閉鎖した.術中TEEでARはtrivialであった.術後経過は良好で術後7日に退院した.術後5日,1カ月,3カ月,12カ月に施行したUCGではARはtrivialと逆流は良好に制御されており,抗生剤は術後3カ月で中止したが,現在まで感染の再燃なく経過している.

  • 名倉 里織, 坂田 公正, 酒井 麻里, 深原 一晃
    2019 年 48 巻 2 号 p. 119-124
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    61歳女性.36歳時に右下肢深部静脈血栓症,38歳時に原発性抗リン脂質抗体症候群(primary antiphospholipid syndrome : primary APS)と診断されている.54歳時に急速進行性糸球体腎炎を発症,腎機能悪化により1カ月前から血液透析が導入されていた.夜間呼吸困難を訴え救急外来を受診,心エコー検査にて重症大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症(Aortic stenosis and regurgitation : ASR)を認め,シャント造設も影響して左心不全に陥ったと考えられた.また数日前から頭痛,失書,失算の症状があり,頭部MRI検査を施行したところ多発脳梗塞の所見も認めた.ASRに対し早期手術が望ましいと考えられたが,急性期脳梗塞脳を合併しており期間をおいての手術を予定した.経過観察中にも無症候性に新規脳梗塞を認め,入院38日目に生体弁による大動脈弁置換術(Aortic valve replacement : AVR)を施行した.活動性の高いprimary APSを合併しており,Aspirin内服下で手術を施行,術後も早期よりHeparinの投与を行った.周術期血栓症トラブルなく,術後34日目に独歩退院となった.術前にprimary APSによると考えられる脳梗塞を反復した症例に対するAVRを経験したので,若干の文献的考察を含め報告する.

  • 天本 宗次郎, 里 学, 川﨑 裕満, 内藤 光三
    2019 年 48 巻 2 号 p. 125-127
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    内科的治療抵抗性や心タンポナーデ兆候を示す難治性心嚢液貯留に対しては外科的治療が推奨されている.今回われわれは,難治性心嚢液貯留に対し,デンバーシャントを応用した外科的治療を経験したので報告する.症例は60歳女性.全身性エリテマトーデスに合併する心膜炎,心嚢液貯留に対して心嚢ドレナージを行っていた.その後も心嚢液貯留を繰り返し,今後心タンポナーデを来す可能性が考えられたため,外科的治療の方針とした.胸腔鏡補助下に右側心膜開窓術を行ったのち,デンバーシャントを用いて右胸腔-腹腔シャント術を施行した.術後,心不全症状は消失し,心嚢液も著明に減少し,良好な経過をたどった.現在も心嚢液の再貯留なく経過観察中である.デンバーシャントは術後感染例や閉塞例も報告され,注意深く経過観察が必要であるとともに,自己管理の可能な患者選択が重要である.

[大血管]
  • 飯尾 みなみ, 藤村 直樹, 吉武 秀一郎, 大坪 諭, 廣谷 隆
    2019 年 48 巻 2 号 p. 128-133
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,男性.以前より認めていた胸部下行大動脈瘤,腹部大動脈瘤の増大傾向を認めた.基礎疾患が多く,高リスクと考えられたため,まずは胸部下行大動脈瘤に対してステントグラフト内挿術を施行したが,高度の動脈石灰化によりtype Ib endoleakを認めた.胸腹移行部瘤は最大径75 mm,腎動脈下腹部大動脈瘤は最大径70 mmに達しており,追加治療を行う方針となったが,高リスクである上に,大動脈弓部から両側外腸骨動脈まで全周性に石灰化が高度のいわゆるporcelain aortaの状態であったため,胸腹部大動脈人工血管置換術や,腸骨動脈からの逆行性の腹部分枝バイパスを用いたハイブリッド手術は施行困難と考えられた.そのため,上行大動脈からの順行性の腹部分枝バイパスおよび胸腹部大動脈ステントグラフト内挿術を施行し,良好な結果を得た.本術式は,胸腹部大動脈人工血管置換術や,腸骨動脈からの腹部分枝バイパスを用いたハイブリッド手術が施行困難な胸腹部にわたる大動脈瘤に対して,有効な術式となり得るが,侵襲も大きく,適応を含めさらなる検討が必要である.

  • 小林 大太, 中西 仙太郎, 大平 成真, 伊勢 隼人, 石川 成津矢, 木村 文昭, 原田 英之, 紙谷 寛之
    2019 年 48 巻 2 号 p. 134-137
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    症例は68歳女性.1カ月前から咳嗽・呼吸困難を自覚し,さらに動悸も出現したため前医を受診した.レントゲン上で左胸水の貯留を認め,利尿剤内服による保存的加療を受けたが改善しないため,CT撮影したところ遠位弓部に9 cmの大動脈瘤を認めた.左胸水貯留が増悪しており胸部大動脈瘤破裂と診断され,手術目的に当科紹介となった.来院後造影CTを撮影すると,左胸水がさらに増加しており緊急手術の方針となった.手術は,胸骨正中切開でアプローチし,上行大動脈送血,上下大静脈脱血にて体外循環を確立した.体外循環確立後に右室の急速な拡大を認めたため左房ベントを挿入するも右心系の減圧は得られなかった.このため,主肺動脈にベントを挿入し,分時1 L脱血したところ右心系の減圧が得られた.手術はJ Graft OPEN STENT GRAFT(23 mm×6 cm)を用いた全弓部置換術(J-Graft 24 mm 4分枝)を施行した.術中所見では,胸水の性状は黄色漿液性胸水であり,瘤内を観察すると左肺動脈に接する8 mmの瘻孔を認め,これを直接縫合閉鎖した.術中は動脈管開存と考えていたが術後に検討したところ,大動脈瘤肺動脈穿破と考えられた.術後経過は特に問題なく,術後16日に軽快退院となった.今回われわれは右心不全症状を主訴とする非常に稀な遠位弓部大動脈瘤左肺動脈穿破の1例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 遠藤 由樹, 入江 嘉仁, 藤宮 剛, 北川 彰信
    2019 年 48 巻 2 号 p. 138-141
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    症例は47歳男性.自宅で胸背部痛を自覚し当院に救急搬送された.胸腹部造影CT検査でStanfordA型急性大動脈解離と診断された.腹腔動脈は血流をみとめず上腸間膜動脈も血流は遅延していた.心嚢液は少量で循環動態は安定していたが代謝性アシドーシスが進行して臓器虚血が疑われたためcentral repairに先行し血管内治療による腹部分枝の血行再建を行い,その後大動脈全弓部人工血管置換術を施行した.術後一時的に対麻痺を認めスパイナルドレナージと血圧を昇圧することで回復し術後第68病日独歩退院となった.臓器虚血を伴うStanfordA型急性大動脈解離に対し血管内治療を先行させ,良好な結果を得たため文献的考察を含めて報告する.

  • 今井 伸一, 上野 正裕, 山本 啓介, 井ノ上 博法, 森下 靖雄
    2019 年 48 巻 2 号 p. 142-146
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    症例は61歳女性.血栓閉塞型II型大動脈解離を発症し,保存的に加療された既往がある.1年後,突然の呼吸苦および胸背部痛のため当院へ救急搬送され,IIIb型急性大動脈解離と診断された.経過中,偽腔拡大に伴う真腔狭小化により,両下肢の間欠性跛行を認めていた.その後,徐々に下肢の虚血症状は進行していった.解離発症後2週間で右下肢の安静時痛が出現し,Ankle brachial index(ABI)も測定不可となった.下肢の血行再建術を検討したが,同時期にII型大動脈解離を再発したため全弓部置換術の適応となった.術中の下肢虚血を念頭におき,まず両側大腿動脈にT字グラフト末梢側をそれぞれ吻合し,上行大動脈とともにグラフト中枢側から人工心肺の送血を行った.弓部置換後も両下肢虚血は改善しなかったため,T字グラフト中枢側をそのまま利用し,弓部人工血管側枝をinflowとした両側大腿動脈バイパス術を施行した.術中下肢虚血の指標にわれわれは無侵襲混合血酸素飽和度監視システム(In Vivo Optical Spectroscopy : INVOS)を用いており,下肢血行再建術の是非の判断に有用であった.術後,グラフトの開存は良好であり,各臓器灌流に問題なく両下肢虚血も改善した.

  • 在國寺 健太, 水野 明宏, 小川 辰士, 齊藤 慈円
    2019 年 48 巻 2 号 p. 147-151
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    Stanford A型急性大動脈解離に対する全弓部置換術後に生じた稀な合併症である遅発性対麻痺を経験した.症例は52歳男性,突然の胸背部痛のため前医に救急搬送され,Stanford A型急性大動脈解離の診断で手術目的に当院に紹介搬送となった.術前の造影CTでentryは上行大動脈に認め,遠位弓部に大きなre-entryを認めた.偽腔は開存しており,右総腸骨動脈まで広範囲の解離を認め,腹部大動脈の真腔は狭小化し右下肢の血流不全を認めた.術前の意識状態は清明で血行動態は安定しており,両下肢の運動は確認されていた.同日に緊急手術を施行した.左大腿動脈送血,右房脱血で体外循環を確立し,膀胱温26°Cの中等度低体温循環停止(最低膀胱温21.9°C),選択的脳分離体外循環下にelephant trunk法による全弓部大動脈置換術を施行した.経過は良好で,術後6時間で人工呼吸器を離脱した.平均血圧は70 mmHg前後で安定しており,呼吸器離脱前後で四肢運動が可能なことが確かめられた.術翌朝まで下肢の運動に異常は認めなかったが,術後約17時間で対麻痺が生じた.平均血圧を90 mmHg以上に保ち,緊急に脊髄ドレナージを施行し,ステロイド大量療法とナロキソンの持続点滴を併用した.脊髄ドレナージ直後から右下肢の運動が確認でき,その後のリハビリテーションにより介助なく歩行可能となり,膀胱直腸障害もなく,術後20日で独歩自宅退院となった.弓部大動脈人工血管置換術後の遅発性対麻痺は比較的稀な合併症であるが,対麻痺発症の早期診断と早期治療介入が奏功し,その重要性が示唆された.

[末梢血管]
  • 奈田 慎一, 澤田 健太郎, 古野 哲慎, 新谷 悠介, 大塚 裕之, 廣松 伸一, 田中 啓之
    2019 年 48 巻 2 号 p. 152-156
    発行日: 2019/03/15
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    腹部骨盤部領域の手術における尿管損傷は約1%に起こるといわれている.尿管損傷は術中の直接損傷だけではなく,術中に判断できない症例や遅発性に発症する症例があり,早期診断に難渋することもある.症例は84歳男性,腹部大動脈瘤に対し開腹人工血管置換術を施行した.術中腸骨動脈と尿管との癒着はなく,術中尿管の直視下の確認や剥離は行わなかった.術後5日目に腸閉塞を発症し,イレウスチューブ挿入にて治療を行ったが,術後11日目に再度腹部膨満が増悪したため造影CTを施行したところ,左腸腰筋に接して周囲に造影効果のある内部不均一な55×26 mm大の低吸収域を認めた.腸腰筋膿瘍の炎症波及に伴う麻痺性腸閉塞と判断し,カルバペネム系の抗菌薬で治療を開始した.しかし,腹部膨満の改善に乏しく,術後13日目に単純CTを撮影したところ,左水腎症と前回CTで膿瘍と判断した占拠性病変内に造影剤の残留を認めた.これらの所見より尿管損傷が疑われ,経尿道的尿路造影で左尿管損傷による尿漏,尿瘤と診断し,尿性腹膜炎による腸閉塞と判断した.経皮的腎瘻造設による尿のドレナージにより症状改善を得た.術後56日目に自宅退院となり,術後6カ月のCTでは尿瘤は完全に消失した.幸いにも経過中人工血管への感染は認めなかった.今回,腹部大動脈人工血管置換術後に,遅発性の尿管損傷を合併した症例を経験したので報告する.

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