2020 年 49 巻 2 号 p. 77-80
大動脈解離は通常は突然の胸痛などを伴うが,稀に症状を認めない場合もある.今回われわれは,術前診断に苦慮した慢性Stanford A型大動脈解離に急性Stanford B型大動脈解離が重複した1例を経験したので報告する.症例は45歳,男性.突然の胸背部痛を認めたために近医に搬送された.造影CT検査で急性Stanford A型大動脈解離と診断されたため,当院転院搬送となり緊急で上行弓部置換術を施行した.術中所見では腕頭動脈起始部と左鎖骨下動脈起始部に2つのentryを認め,上行大動脈壁は肥厚していたが遠位弓部より末梢の大動脈壁には肥厚は認めなかった.病理所見では上行大動脈は中膜外側で解離しており,中膜および外膜には著明な肥厚を認めていた.以上の所見より,慢性A型大動脈解離に急性B型大動脈解離が重複したと診断した.非常に稀ではあるが,発症時に無症状で慢性化した大動脈解離に異時性に新たな大動脈解離を発症する場合があることを念頭に置く必要があると考えられた.