2020 年 49 巻 4 号 p. 160-168
[目的]2017,2018年のJCVSDの集計を記述し,本邦の弁膜症手術の現状と傾向を理解する一助となることを目指す.指標となる代表的術式の手術成績を示し,今後の弁膜症治療を考えるうえで重要と思われる経カテーテル的大動脈弁置換術,右開胸での弁膜症手術についてもJCVSDのデータから提供できる統計を記述する.[方法]JCVSDデータベースより2017年と2018年の心臓弁膜症手術データを抽出した.本報告が始まってからの大動脈弁手術数6年間の推移を示した.弁膜症の代表的な術式について,年代別に,手術死亡率を示した.小切開弁手術と経カテーテル的大動脈弁置換術の手術成績につきJCVSDから提供できるデータを記載した.[結果]2015~2016年の2年間と比較して2017~2018年は経カテーテル的大動脈弁置換術の著しい増加がみられたが外科的大動脈弁置換術も26,054例から28,202例に増加がみられた.弁膜症初回手術の手術死亡率は,大動脈弁置換単弁で生体弁機械弁とも1.8%,僧帽弁形成0.9%など良好であった.初回生体弁僧帽弁置換は8.2%,機械弁で4.6%であった.冠動脈バイパス術を併施した症例では大動脈弁置換初回単弁で5.2%,僧帽弁形成で4.9%であった.人工弁選択では大動脈弁位では60代でも72.6%の患者に生体弁が用いられており,より生体弁が多く用いられる傾向が明らかであった.右開胸での手術について,初回単弁僧帽弁形成では31.8%の症例が右開胸でなされていた.手術成績について多くの転帰で右側開胸が良好であったが,同時に右開胸の症例のほうがJapan Scoreでリスクの低い症例の割合が大きいことが分かった.大動脈遮断時間,人工心肺時間は側開胸で長かった.大動脈弁置換術では右側開胸で行われているのは6.3%,やはり右側開胸で多くの転帰で手術成績が良好であったが,これも側開胸でJapan Scoreで低リスク症例の割合が大きかった.経カテーテル的大動脈弁置換術と外科的大動脈弁置換全体の手術死亡率は,それぞれ1.5%と1.8%であった.[結語]2017~2018年のJCVSDによる弁膜症手術の集計を報告した.