本邦で発生した肺動脈カテーテル(PAC)による心臓損傷死亡事例を契機とし,PAC使用と合併症の現状把握を目的としたアンケート調査を行った.[方法]心臓血管外科専門医認定修練施設532施設に10項目からなるアンケートを送付し325施設(61.1%)の回答を得て集計した.[結果]心臓手術に際してPACを使用する割合は90%以上と回答した施設が72%を占め,50%以下は17%の施設にすぎなかった.その適応基準については取り決めがない施設が52%あった.合併症発生状況については,過去10年間にPACの縫込みを経験したことのある施設が90施設(28%)あり,その発生率はおおよそ0.07%であった.一方,PACによる肺動脈損傷は71施設(22%)が経験ありと回答し,その発生率はおおよそ0.05%であった.約25%の施設は手術中の縫込みの有無のチェックや抜去の際の教育指導を行っていなかった.また肺動脈損傷を予防するためのPACカテーテル取り扱いについての取り決めを行っていない施設が56%あった.[結論]心臓手術に際し,いぜんとして多くの施設でPACがほぼルーティーンに使用されていた.危険性の高い合併症であるPACの縫込み,肺動脈損傷の発生状況も明らかになった.今後,PAC使用のベネフィットがリスクを上回る症例に適応を限り,合併症を回避するために,取り扱いガイドラインの策定とその周知を図ることが必要と考えられた.