日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
Print ISSN : 0285-1474
ISSN-L : 0285-1474
50 巻, 1 号
選択された号の論文の31件中1~31を表示しています
巻頭言
原著
  • 松宮 護郎, 鈴木 孝明, 横山 斉
    2021 年 50 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    本邦で発生した肺動脈カテーテル(PAC)による心臓損傷死亡事例を契機とし,PAC使用と合併症の現状把握を目的としたアンケート調査を行った.[方法]心臓血管外科専門医認定修練施設532施設に10項目からなるアンケートを送付し325施設(61.1%)の回答を得て集計した.[結果]心臓手術に際してPACを使用する割合は90%以上と回答した施設が72%を占め,50%以下は17%の施設にすぎなかった.その適応基準については取り決めがない施設が52%あった.合併症発生状況については,過去10年間にPACの縫込みを経験したことのある施設が90施設(28%)あり,その発生率はおおよそ0.07%であった.一方,PACによる肺動脈損傷は71施設(22%)が経験ありと回答し,その発生率はおおよそ0.05%であった.約25%の施設は手術中の縫込みの有無のチェックや抜去の際の教育指導を行っていなかった.また肺動脈損傷を予防するためのPACカテーテル取り扱いについての取り決めを行っていない施設が56%あった.[結論]心臓手術に際し,いぜんとして多くの施設でPACがほぼルーティーンに使用されていた.危険性の高い合併症であるPACの縫込み,肺動脈損傷の発生状況も明らかになった.今後,PAC使用のベネフィットがリスクを上回る症例に適応を限り,合併症を回避するために,取り扱いガイドラインの策定とその周知を図ることが必要と考えられた.

  • 2021 年 50 巻 1 号 p. 8-14
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー
症例報告
[先天性疾患]
  • 村山 史朗, 野村 耕司, 黄 義浩, 磯部 将
    2021 年 50 巻 1 号 p. 15-18
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    症例は0生日男児,胎児期に高度な左室肥大と大動脈から左心室への逆流により左室大動脈トンネル(aorto-leftventricular tunnel : ALVT)の診断がつき,病院間連携をとり出生後2時間で緊急左室大動脈トンネル閉鎖術を施行した.トンネルは右冠尖-左冠尖交連部直上に位置し,径は8 mmであった.また大動脈弁は三尖であったが肥厚し開放制限を認め,右冠動脈起始異常も合併していた.弁の変形や手術侵襲を考慮し,大動脈側開口部のみ自己心膜でパッチ閉鎖した.術後軽度大動脈弁狭窄および逆流を認めたが,経過良好であり左室肥大,心機能の改善を認めた.

  • 野田 美香, 櫻井 一, 野中 利通, 櫻井 寛久, 小坂井 基史, 村上 優, 鎌田 真弓, 中山 卓也
    2021 年 50 巻 1 号 p. 19-22
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    症例は2カ月男児.末梢冷感が著明であり心筋症を疑われ搬送された.心電図検査では虚血変化を,心臓超音波検査では心機能低下を認め,緊急カテーテル検査を施行したところ大動脈造影では冠動脈が造影されず,肺動脈造影で冠動脈が造影され単一冠動脈肺動脈起始症(anomalous origin of the single coronary artery from the pulmonary artery : ASCAPA)と診断し緊急手術を施行した.術中に肺動脈幹左側より起始する単一冠動脈を認めた.動脈管は閉鎖していた.体外循環開始時の脱血開始とともに冠血流の低下が予想されたため,上行大動脈だけでなく肺動脈にも送血した.単一冠動脈の大動脈への直接吻合は困難と判断し,竹内法に準じて大動脈から冠動脈への血流路を作製した.術後経過は良好であった.単一冠動脈肺動脈起始症の文献報告として他の合併心疾患がなく動脈管も閉鎖している症例はきわめて稀である.本症例では体外循環開始後の冠血流維持に工夫を要し,外科的治療にて救命しえたので報告する.

  • 熊江 優, 小渡 亮介, 今村 優紀, 大徳 和之, 皆川 正仁, 福田 幾夫
    2021 年 50 巻 1 号 p. 23-26
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    症例は70歳女性で,ファロー四徴症に対し,Blalock-Taussig shunt後に25歳で心内修復が行われた.術後45年で大動脈基部拡大に伴う大動脈弁逆流,肺動脈弁逆流による心不全を発症した.本例に対して大動脈弁置換,上行大動脈置換,肺動脈弁置換を行い良好な結果が得られた.ファロー四徴症術後の大動脈基部拡大や大動脈弁閉鎖不全に対し,明確な治療方針は定まっていない.Classic Blalock-Taussig shuntが姑息術として行われていた症例の高齢化に伴い,本例のように左心系と右心系の複合病変を有する症例の増加が予測される.大動脈基部拡大を伴う大動脈弁閉鎖不全に対して年齢や再手術例であることを考慮し,大動脈弁置換と上行大動脈置換を行うことは,適切な治療選択肢であると考えられた.

[成人心臓]
  • 吉田 一史, 石上 雅之助, 小山 忠明
    2021 年 50 巻 1 号 p. 27-30
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    手術リスクが高くカテーテル治療を考慮するも不適と判断された人工弁周囲逆流(paravalvular leakage ; PVL)再発症例に再々僧帽弁置換術を行った1手術例を経験した.67歳女性.PVLでの再僧帽弁置換術後,3年前にPVLの再発を認め手術介入となった.弁輪は全周性に高度石灰化し再々人工弁置換のリスクは高く,PVLを直接縫合閉鎖した.術後39カ月でPLV再発しカテーテル治療を考慮するも複数箇所の広範囲逆流と弁座動揺のため,治療不適と判断され,再々僧帽弁置換術を行った.0-4時方向の人工弁カフと弁輪間に間隙を認め,人工弁を外すと同部で弁輪に埋入した古い人工弁の弁座構造物が残っていた.Cusa®(Integra LifeScience社,アイルランド)やHarmonic Synergy® Curved Blade(Johnson & Johnson Medical社,USA)で可及的に人工弁カフの遺残と石灰化病変を慎重に除去し,左房壁に人工弁カフを乗せる形で縫合し弁輪再建の必要なく僧帽弁置換術を完遂した.術後合併症なく第39病日に自宅退院した.術後2年でPVL再発なく経過している.高度の弁輪石灰化を伴いカテーテル治療困難症例であってもCusa® とHarmonic Synergy® Curved Bladeを用いて最小限の脱灰を行うことで再々弁置換を行うことができた.

  • 落合 智徳, 内田 徹郎, 黒田 吉則, 山下 淳, 大塲 栄一, 中井 信吾, 小林 龍宏, 貞弘 光章
    2021 年 50 巻 1 号 p. 31-33
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    症例は60歳,男性.大動脈弁閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症,左前下行枝狭窄に対し,大動脈弁置換術,三尖弁輪形成術および冠動脈バイパス術を施行した.術後に施行した心臓超音波検査で無冠動脈洞-左心房短絡を認めた.更なる短絡量増加と感染性心内膜炎発症の可能性を危惧し,術後21日目に再手術による短絡閉鎖術を施行した.手術所見では,無冠動脈洞と左心房両者の内膜に小さい損傷部を認めた.無冠動脈洞と左心房の損傷部をそれぞれ閉鎖したうえで,無冠動脈洞壁と左心房壁を挟み込むマットレス縫合で短絡閉鎖部を補強した.再手術後の術後経過は良好であった.大動脈弁置換術後の無冠動脈洞-左心房短絡は非常に稀な合併症だが,再手術を必要とする可能性がある重篤な合併症として認識し,よりいっそう確実な手術手技を心がける必要がある.

  • 伊藤 駿太郎, 茂木 健司, 櫻井 学, 谷 建吾, 橋本 昌典, 高原 善治
    2021 年 50 巻 1 号 p. 34-37
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    27年前に胸部放射線治療歴がある64歳女性.3年前から慢性的な血性心嚢液の貯留を認めドレナージを繰り返したが,しだいに全身浮腫と夜間呼吸困難が増悪した.心膜肥厚と右室圧波形のdip and plateau patternより収縮性心膜炎と診断し,心膜切除術と心外膜切開術(waffle procedure)を施行した.しかし,病理組織所見から悪性心膜中皮腫と診断,術後17日目に死亡した.悪性心膜中皮腫は非常に稀で予後はきわめて不良な疾患であり,今後増加することが予想される.胸部放射線治療歴があり原因不明の血性心嚢液貯留を繰り返す症例において,本疾患は念頭に置かなければならない.

[大血管]
  • 榊原 聡, 山内 孝, 須原 均, 三上 翔, 正井 崇史
    2021 年 50 巻 1 号 p. 38-43
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    症例は63歳男性.健康診断の胸部X線で縦隔陰影の拡大を指摘され,精査加療目的に当科紹介受診.心エコーで左冠尖基部に連続する巨大嚢胞状腫瘤とその中に流入する血流を認め,左バルサルバ洞動脈瘤の診断となった.また大動脈弁二尖弁,moderate ARも認めた.冠動脈CTで左冠動脈は瘤より起始し,有意狭窄はなかったが,瘤壁に圧排され扁平に変形していた.本症例に対し,左冠尖部分の弁輪組織が脆弱かつ著明に拡大していたため,Bentall手術を施行した.左冠尖部分は僧帽弁前尖に連なる線維組織に糸かけを行い,さらに止血補強にウシ心膜を用いた.左冠動脈は瘤壁に強固に癒着しており,剥離の際に後壁を損傷したため,大伏在静脈パッチで冠動脈形成術を行った.左バルサルバ洞動脈瘤はきわめて稀な疾患であり,基部置換時の止血補強や冠動脈再建時のpitfallを術前に十分把握し,治療戦略をたてることが重要であると思われた.

  • 渡邊 俊貴, 吉谷 信幸, 当广 遼, 三里 卓也, 岡本 一真, 林 太郎, 戸部 智
    2021 年 50 巻 1 号 p. 44-48
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    症例は79歳男性.急性B型大動脈解離で保存加療していたが,発症3週目に遠位弓部大動脈と下行大動脈の2カ所が急速拡大をきたした.遠位弓部大動脈から胸部下行大動脈がshaggy aortaであったため,弓部置換術を先行後に胸部ステントグラフト(TEVAR)を行う二期的手術を予定した.一期目手術時にFrozen elephant trunkを用い,遠位弓部の血栓性アテロームによる塞栓症を予防した.二期目手術時にはあらかじめ上腸間膜動脈,腎動脈をバルーンカテーテルで保護した.術後経過は良好で,懸念すべき重篤な塞栓症を発症せず,初回手術から23日目に独歩退院された.Shaggy aortaを合併した広範な大動脈手術においては,塞栓症を回避するための症例ごとの手術戦略を計画することが重要である.本症例においてはFrozen elephant trunkにTEVARを組み合わせた二期的ハイブリッド治療が有効であった可能性が推察されたため,文献的考察を加えて報告する.

  • 吉田 賢司, 喜岡 幸央, 枝木 大治, 衛藤 弘城, 栗山 充仁
    2021 年 50 巻 1 号 p. 49-52
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    Valsalva洞動脈瘤は,心内型,心外型,破裂,非破裂により手術方法は多岐にわたっている.心内型で右室腔内突出型の手術においては,大動脈切開アプローチによるValsalva洞形成の報告は認められる.今回われわれは,単独右室切開アプローチによるValsalva洞形成,瘤切除を経験したので報告する.症例は75歳男性で,労作時易疲労感と心雑音の増強を主訴とし紹介受診となった.画像診断で右室を占拠する長径66 mmの巨大右Valsalva洞動脈瘤を認め,右室流出路狭窄,右室駆出率低下(9.3%)を伴っており,手術適応と判断し手術を施行した.体外循環心停止下に,右室流出路切開に続き瘤を切開後,瘤内よりウシ心膜パッチを用いて右Valsalva洞を形成し,瘤を切除した.術後経過は良好で第14病日に退院となり,術後1年の経過は良好であった.

  • 後藤 新之介, 中井 真尚, 川口 信司, 宮野 雄太, 山田 宗明, 寺井 恭彦, 野村 亮太, 三岡 博, 山崎 文郎
    2021 年 50 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,女性.高所からの落下による高エネルギー外傷により救急搬送された.造影CTにて左総頸動脈の引き抜き損傷と診断され緊急手術となった.胸骨正中切開でアプローチ,右大腿動脈送血,右房脱血で体外循環を確立し全身冷却を開始した.鼓膜温20度で循環停止として大動脈を切開し破裂部を確認すると左総頸動脈起始部は約10 mmにわたり断裂していた.左総頸動脈末梢で弓部大動脈を離断し,部分弓部置換を行った.術後経過は良好で術後16日目に自宅退院となった.高エネルギー外傷による左総頸動脈引き抜き損傷に対してopen repairで救命し得た1例を報告する.

  • 川口 信司, 宮野 雄太, 後藤 新之介, 寺井 恭彦, 野村 亮太, 中井 真尚, 三岡 博, 山崎 文郎
    2021 年 50 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    症例は51歳,男性.左上肢の冷感,疼痛を主訴に前医で造影CTを撮像し,弓部大動脈に内腔に突出する腫瘤影を認め,腫瘍もしくは血栓による左上肢の末梢動脈塞栓症が疑われ当院に転院搬送となった.MRIでは弓部大動脈内に可動性の腫瘤影を認めた.塞栓症再発の危険性があったため手術を施行する方針とした.体外循環下に超低体温循環停止,選択的脳灌流を行い腫瘤と腫瘤が付着した大動脈壁を切除し上行弓部部分置換を施行した.病理検査では腫瘤は血栓で悪性所見は認めず,大動脈壁は内膜の軽度の粥状硬化を認めるのみであった.術後,抗凝固療法としてワルファリン内服を開始した.プロテインS,C欠損症や抗リン脂質抗体症候群などの血栓性素因を疑い精査したがいずれの所見も認めなかった.術後10日目に自宅退院となり,術後3年が経過したが血栓塞栓症の再発は認めていない.動脈瘤や動脈硬化性病変を伴わない若年発症の大動脈内血栓症は稀であり弓部大動脈内に血栓を形成した症例の報告は少ない.文献的考察を加えて報告する.

  • 村上 健, 三浦 崇, 佐野 寿郎, 井上 拓, 住 瑞木, 松丸 一朗, 松隈 誠司, 谷川 和好, 江石 清行
    2021 年 50 巻 1 号 p. 61-64
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    成人動脈管憩室動脈瘤はきわめて稀な疾患だが破裂リスクが高く,早期の手術適応が推奨される.今回,動脈瘤手術を行い,動脈管憩室動脈瘤との診断に至った1例を経験した.症例は24歳男性.発熱および胸背部痛を主訴に他院を受診した.採血上は炎症反応の亢進がみられ,CTでは弓部大動脈に嚢状瘤を認めた.感染性大動脈瘤の疑いとして当院へ緊急搬送となり,動脈瘤の拡大を認めたため,第3病日にリファンピシン浸透の人工血管にて下行大動脈置換術を行った.術前・術後で提出した血液培養検体・術中組織検体はすべて陰性で,病理組織上も非特異的炎症反応のみで細菌感染を疑う所見は認められず,抗菌薬は術後10日目に中止した.若齢であり動脈硬化性変化がなく,外傷歴がないこと,術中に動脈瘤内への境界明瞭な入口部がみられたこと,入口部の位置が動脈管索の付着部であったことから,総合的に非特異的炎症反応を伴う成人動脈管憩室動脈瘤と診断した.経過は良好で術後2年3カ月が経過し,炎症所見の再発はなく社会復帰している.

  • 伊藤 駿太郎, 茂木 健司, 櫻井 学, 谷 建吾, 橋本 昌典, 高原 善治
    2021 年 50 巻 1 号 p. 65-68
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    症例は55歳男性.来院4時間前,仕事中に前胸部を打撲し,前胸部痛が持続するため前医を受診した.胸腹部CTで胸骨横骨折および外傷性急性大動脈解離(Stanford A型,DeBakeyII型)を認め,他の出血性合併損傷を認めなかったため緊急で上行置換術を施行した.経過は良好で術後19日目に独歩退院した.病理組織所見では嚢状中膜壊死を認めず,外傷性大動脈解離の所見であった.高度の粥状動脈硬化性変化を有する場合,高エネルギー外傷でない場合においても大動脈損傷の可能性を念頭に置くべきである.外傷性大動脈損傷では,合併損傷を考慮して症例ごとに治療介入の至適時期を見極めることが重要である.

  • 中島 光貴, 波里 陽介, 高木 寿人, 北村 律, 宮地 鑑
    2021 年 50 巻 1 号 p. 69-72
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    B型急性大動脈解離に伴う下肢血流障害に対して大動脈解離の亜急性期に血管内治療(EVAR)手術を行い改善した症例を経験したため報告する.症例は53歳女性.偽腔開存型B型急性大動脈解離の亜急性期に再解離を認め緊急入院となった.入院時は腰痛と右下肢脱力感を認めるも四肢末梢の動脈拍動は触診可能であり降圧療法を開始したが経過中に右下肢間欠性跛行を認め,ABPI(Ankle Brachial Pressure Index)検査では右下肢0.56と著明な低下を認めた.CT検査では腎動脈下腹部大動脈に大きなエントリーを認め,左外腸骨動脈にリエントリーを認めていたが,腎動脈分岐部より中枢側は血栓閉塞していた.さらに右総腸骨動脈においては血栓閉塞した偽腔により真腔圧排像を認めた.このため大動脈解離亜急性期にEVAR(Endovascular aortic repair)手術を施行した.腎動脈下のULP閉鎖と両側総腸骨動脈の真腔拡張を目的に腎動脈直下から両側総腸骨動脈末梢までステントグラフトを留置した.術後5日目のCT検査では良好な真腔拡張像を認め,ABPI検査では左右ともに正常範囲内まで改善し間欠性跛行も消失した.B型急性大動脈解離の下肢血流障害に対してEVAR手術は低侵襲であり有効な治療法と考えられた.

第50回日本心臓血管外科学会学術総会 卒後教育セミナー
  • 浅井 徹
    2021 年 50 巻 1 号 p. 1-i-1-viii
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    心室中隔破裂VSRは,急性心筋梗塞後の致死的な合併症である.発症時期は,STEMI発症後第一病日と第三から第五病日の間の二峰性にピークがある.経皮的VSR閉鎖術は,適応は限られ外科的VSR閉鎖術が根治治療である.VSR外科的閉鎖術の変遷は,1957年Cooleyの報告以来,さまざまな術式が登場し普及したが,近年でも全手術死亡42.9%,STEMI発症一週間以内の症例では54.1%であった.また,後壁型VSRの成績は前壁型VSRより成績不良であった.これらの問題解決のために,経右室切開拡大サンドイッチ法は開発された.左前下行枝または右冠動脈後下行枝の近傍を平行に右室切開し,欠損部を同定し壊死心筋を一部切除して左室内へ達する.6 cm径のパッチにあらかじめ大きな針8針ほどマットレスをかけ,辺縁から遠く放射状に左室の外の中隔と自由壁へ針を抜く.自由壁外は大きなフェルトプレジェットを,右室側に抜いた針は左室側と同様のパッチを通して中隔を挟む.最後の糸を結ぶ前に穿孔とデブリでできた欠損部に糊を入れて閉鎖する.この術式は超急性期で短絡再発が少なく高い救命率が報告された.STEMI発症後急性期であっても後壁型VSRでも手術は重度心不全の進行する前に速やかに行うことが重要である.

  • 伊藤 敏明
    2021 年 50 巻 1 号 p. 1-ix-1-xiv
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    Minimally invasive aortic valve replacement (MIAVR) through right antero-lateral thoracotomy (ALT) has several advantages over traditional anterior chest approaches (right anterior thoracotomy, or partial sternotomy). First, ALT is less affected by anatomical variation of the position of the ascending aorta, second, concomitant mitral valve surgery is possible, and third, outcome in cosmesis is better. MIAVR can be done under direct vision and endoscopic assist. Longitudinal axillary incision and thoracotomy through the third inter-costal space is appropriate to directly look down the aortic valve. Endoscopic assist and tying down the sutures using a knot-pusher are mandatory. MIAVR can also be done totally endoscopically. Three dimensional endoscope and independent working ports for the right and left hand are helpful. Appropriate working space for the endoscopic surgery is obtained by antero-lateral approach. Standard valve can be used in endoscopic AVR, without using fastener devices.

  • 高梨 秀一郎
    2021 年 50 巻 1 号 p. 1-xv-1-xvii
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー
  • 落合 由恵
    2021 年 50 巻 1 号 p. 1-xviii-1-xxv
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    新生児・乳児期早期の肺血流減少性疾患に対する体肺動脈シャント手術は,単独の姑息手術,また複雑姑息開心術の一部として,その後の根治術,段階的手術の完成度に影響する,非常に大事なfirst palliationである.疾患特有の血行動態を理解し,出来上がりをイメージして,シャントの“形態”と“流量”を考慮したデザインを決定することが重要である.近年,胸骨正中切開でのBlalock-Taussig shunt(BT shunt),Central shuntが主流になっているが,側開胸でのconventionalなBTshuntも今なお,小児心臓外科医が習得すべき重要な基本的手技の1つである.また肺動脈絞扼術(Pulmonary artery banding ; PAB),両側PABは,新生児高肺血流の複雑心疾患,機能的単心室に対して,左右肺血管床を均等に保護するための重要な姑息手術である.次回手術に順調に繋がる確実なPAB,両側PABが肝要である.

  • 田畑 美弥子
    2021 年 50 巻 1 号 p. 1-xxvi-1-xxix
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    わが国におけるCABGはこれまでの国内での比較研究に基づきオフポンプ(OPCAB)が約60%と高い割合を示してきた.しかしながら最近の大規模試験によりONCABの優位性が報告され,OPCABの有益性に疑問が生じた.それでもなお,大動脈高度石灰化,腎機能障害,超高齢者などのハイリスク群ではOPCABによって手術直後の合併症を軽減させる効果が期待される.高齢化社会において,外科医はオフポンプでより精度の高い冠動脈吻合を習得するため,日々技術を磨いていく必要がある.

  • 宮入 剛
    2021 年 50 巻 1 号 p. 1-xxx-1-xxxv
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー
  • 山本 平, 遠藤 大介, 松下 訓, 嶋田 晶江, 大石 淳実, 土肥 静之, 浅井 徹, 天野 篤
    2021 年 50 巻 1 号 p. 1-xxxvi-1-xlviii
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    左心房ならびに左心耳は,独特の発生学的・解剖学的および生理学的特性があり十分に理解する必要がある.最近では,画像診断法の進歩により多くの新たな知見が得られている.臨床では心房細動の発症リスクは高齢化とともに増加し,心房細動によってもたらされる脳梗塞などの公衆衛生の負担とその予測危険因子や予防戦略,より効果的な治療法を見出す必要がある.新たにatrial myopathyという概念が登場し,動物モデルとヒトの研究により,さまざまなメカニズムを介したatrial myopathy,心房細動,脳卒中の密接な相互作用が明らかになった.線維化などの構造的,電気的リモデリングおよび自律神経のバランス悪化とこれらのメカニズム間の複雑な相互作用により心房細動が悪化し継続する悪循環が導かれ,最後には左心耳内の血栓による血栓塞栓症のリスクが高くなる.心房細動患者の抗凝固療法が強く推奨されているが,現実には多くの患者が至適治療の継続が困難になっている事実もある.このため,左心耳(LAA)の外科治療の必要性が強調され,LAA閉塞あるいは切除するためのいくつかの外科的手法が開発された.抗凝固療法と比べ費用対効果の面からも良好な結果が得られている.どの方法が最適な治療結果をもたらすかはまだ明らかではないが,今後,左心耳の解剖学,生理学を理解し,心房細動時のLAA remodelingに伴う形状変化,サイズや機能の変化,血栓形成の状況を把握し早期に治療介入することがきわめて重要になるであろう.

  • 内田 徹郎, 貞弘 光章
    2021 年 50 巻 1 号 p. 1-xlix-1-lv
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー
第50回日本心臓血管外科学会学術総会 優秀演題
U-40 企画コラム 心臓血管外科専門医制度
  • 村瀬 亮太, 沼口 亮介, 竜川 貴光, 杉本 聡, 大川 陽史, 在原 綾香, 内山 博貴, 若林 尚宏, 庭野 陽樹
    2021 年 50 巻 1 号 p. 1-U1-1-U6
    発行日: 2021/01/15
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

    日本心臓血管外科学会U-40コラムでは現在,専門医制度を主テーマとしている.心臓血管外科専門医制度は新制度を迎えるが,Off the Job Trainingや人工心肺体験型実習など,各修練施設が積極的に取り組まなければならないことも多い.第3回目の今号ではU-40北海道支部U-40メンバーへのアンケート調査を通して,若手心臓血管外科医が専門医取得のために修練施設に求めることは何かを調査した.この調査が各修練施設への啓蒙や若手医師の専門医取得の助けになれば幸いである.

feedback
Top