2021 年 50 巻 2 号 p. 119-123
腹部大動脈修復部位の感染破綻により大動脈破裂を発症した症例に対して,Chimney techniqueを用いて止血術を行い救命した症例を経験したので報告する.症例は62歳,女性.下行結腸癌術後リンパ節転移に対して4回の手術歴があり,4回目の術中に腹部大動脈を損傷し血管修復術と左腎臓摘出術を行った.術後,直腸吻合部の縫合不全による腹膜炎を発症し,大動脈修復部位の感染にひき続いて大動脈破裂を発症した.破裂部位は左腎動脈レベルの近傍であった.大動脈破裂症例であること,腹腔内や後腹膜に高度の癒着が予想され開腹による直接止血は困難であることを考慮し,ステントグラフト留置にはややネック長は短かったが,Chimney techniqueを用いて止血術を行った.術後,endoleakや腎機能悪化を認めず,救命することができた.大動脈破裂症例に対するChimney techniqueは緊急時の治療選択の1つとして有用と考えられた.