症例は糖尿病加療中の73歳男性.胸部違和感を主訴に当院紹介受診した.冠動脈造影(CAG)にて前下行枝(LAD)は#6近位部で完全閉塞し,右冠動脈(RCA)からの側副血行によりLADと灌流域の大きい対角枝(D1)が造影されていた.カテーテル治療を試みるもガイドワイヤーが通過せず,手術目的で当科紹介となった.患者は家業への早期復帰を切望し,LAD, D1に対するMICS-CABGを選択した.術前の胸部CTで上行大動脈は42 mmに拡大していたため,D1へのバイパスは左腋窩動脈をInflowとした大伏在静脈グラフト(SVG)を使用することとした.手術は左乳房下縁を約8.5 cm切開し第4肋間にて開胸した.直視下および胸腔鏡補助下に左内胸動脈(LITA)を採取し,同時に大腿から内視鏡下にSVGを採取した(EVH法).左腋窩動脈を露出し,SVGの中枢側を吻合した.胸腔鏡での観察下にSVGを左胸腔内に誘導し,心拍動下にD1と吻合した.次にLITAをLADに吻合した.術中のグラフトフローは良好であった.術後経過は良好で術後5日目に軽快退院となった.冠動脈CTでグラフトの良好な開存を確認した.上行大動脈拡大を伴う症例でMICS-CABGによる2枝バイパス術を行い良好な結果を得た.腋窩下動脈は上行大動脈を使用できない場合のオプションとして有用と思われた.
大動脈弁狭窄症(AS)に対する術式は大動脈弁置換術(AVR)と経カテーテル大動脈弁埋め込み術(TAVI)があるが,どちらも困難であった重症AS患者に対し心尖部-下行大動脈および両側腋窩動脈バイパス(apico-aortic and biaxillary bypass)による手術を行った.症例は75歳男性.糖尿病性腎症のため血液維持透析(HD)中で,労作時息切れを認め,心エコー検査でpeak V 4.1 m/s,AVA 0.57 cm2,EF 35%と重症ASと診断された.6年前に受けた冠動脈バイパス術で左前下行枝に吻合した右内胸動脈はCT上胸骨下を走行しており,再胸骨切開による同動脈損傷が懸念され,上行大動脈の高度石灰化も考慮しAVRは困難と判断した.HD患者でTAVI適応でなく,左開胸下心尖部-下行大動脈バイパスを行うこととした.生体弁を用いた複合グラフトの末梢側はY型とし,体外循環の送血路としても使用した腋窩-腋窩動脈バイパスの人工血管にも吻合し,apico-aortic and biaxillary bypassの形とした.術後心エコー検査で自己弁peak V 2.9 m/s,EF 46%に改善し,生体弁peak V 1.6 m/sであった.
大動脈弁置換術(AVR)後の胸骨正中切開アプローチでは,癒着剥離面積が大きく,また大動脈弁位人工弁により僧帽弁や三尖弁の視野確保が難しいことがある.右小開胸アプローチは剥離面積が少なく,大動脈弁位人工弁による僧帽弁・三尖弁の視野制限が少ないという利点がある.さらに,心拍動下で手術を行うことで大動脈遮断が不要となり,上行大動脈周囲の剥離が省略できる.当施設でAVR後の僧帽弁・三尖弁閉鎖不全症(MR・TR)に対して内視鏡下右小開胸心拍動下アプローチ手術を行った3例を報告する.
症例は49歳の男性で,重度僧帽弁閉鎖不全症による心不全から亜急性の経過で重症うっ血肝,急性腎不全を合併した.薬物療法やIABPを使用しても血行動態が改善しないため手術適応として心臓外科に紹介となった.肝機能障害に伴う凝固能障害が著明であり,心機能の低下も著しいことから緊急手術は危険と判断し,IMPELLA 5.0を用いて手術待機を行うこととした.待機中のリハビリテーションも考慮して右腋窩動脈からIMPELLA 5.0を挿入した.補助開始後はIMPELLA 5.0挿入に用いた人工血管縫合部からの再出血を生じ止血術を要したが,多臓器不全は徐々に改善し,補助開始から14日目に僧帽弁形成術を施行した.リハビリテーションに時間を要したため入院期間が長くなったが僧帽弁形成術後30日で独歩退院した.IMPELLA 5.0は補助流量が多く心負荷を軽減すると同時に多臓器不全を効果的に改善し,また腋窩動脈から挿入することで補助期間中もリハビリテーションを可能にする有用な機器であると考えられた.
症例は64歳,男性.3年前より血痰を伴う咳嗽が出現していた.今回,咳嗽とともに大量に喀血したため当院へ救急搬送された.造影CT検査で右気管支動脈の拡張と血腫による右気管支中間幹より末梢の閉塞を認め,気管支拡張症による喀血の疑いで止血剤と抗生剤投与による保存的治療が開始された.その後,喀痰抗酸菌培養検査で結核菌が検出され気管支結核症による喀血の診断となった.第19病日に再度大量喀血したため緊急で気管支動脈塞栓術(Bronchial artery embolization ; BAE)が施行されたが,術中カテーテル操作で大動脈解離を生じたため中止となった.BAE後,分離肺換気による呼吸管理を開始したが急激に酸素化が増悪したためVV-ECMO(veno-venous Extra-corporeal Membrane Oxygenation)を導入し,緊急止血目的に胸部ステントグラフト内挿術(Thoracic endovascular aortic repair ; TEVAR)を施行した.術後は臨床上有意な再喀血なく経過し,術後47日目に自宅独歩退院となった.喀血に対してTEVARを施行し有効な止血を得た症例報告は世界的にも少なく,その有効性や長期予後などに関しては不明であるが,今回気管支結核症による大量喀血に対してTEVARを施行し有効な止血を得て救命に至った症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
傍腎動脈腹部大動脈瘤(pararenal abdominal aortic aneurysm ; PRAAA)は中枢ネック長が短く解剖学的条件を満たさないのでEVARに適さないとされているが,最近は欧米を中心にfenestrated EVARやbranched EVAR,chimney EVARなど,その良好な初期成績が報告されている.症例は85歳男性.CTで右腎動脈直下に最大径47 mmのAAAを認め,左腎動脈は瘤から分岐していた.拡大傾向を認めたため手術の方針となった.今回,われわれはreverse VIABAHN sandwich technique(REVIASAN:左腎動脈に尾側方向へのchimney technique)を用いたEVARをPRAAAに対して施行した.術後は腎機能障害などの合併症なく経過し,造影CTでは明らかなエンドリークを認めず,術後9日目に退院した.REVIASAN techniqueは開腹人工血管置換術が困難であり,腎動脈が瘤内から分岐しているPRAAAに対して有用であると考える.REVIASAN techniqueを用いることで合併症を起こさず良好な初期成績を得ることができたので報告する.
症例は49歳の男性.9年前に高安動脈炎に伴う左冠動脈主幹部高度狭窄に対して冠動脈バイパス術(右内胸動脈-左前下行枝,左内胸動脈-側壁枝)を施行された.経過中に左総頸動脈閉塞,腕頭動脈の狭窄病変が進行し前失神発作を認めるようになった.弓部分枝の血行再建が必要と考えられ手術加療を行うこととなった.上行大動脈は45 mmと拡張し高度石灰化を伴っていたため上行大動脈をinflowとするバイパス術は困難と判断し部分弓部大動脈置換術を行うこととした.送血は右腋窩動脈へ吻合した人工血管および左大腿動脈を選択し,低体温循環停止後,上行弓部大動脈を切開した.脳保護は右腋窩動脈へ吻合した人工血管および左鎖骨下動脈からの順行性脳灌流により行った.左総頸動脈は内頸動脈分岐部まで閉塞していたため再建せず,右総頸動脈および右鎖骨下動脈を別個に再建する部分弓部大動脈置換術を施行した.両側内胸動脈は開存していたが,グラフト損傷せずに手術を終了した.術後経過は問題なく,術後20日目に独歩退院となった.
症例は83歳,男性.腎動脈下腹部大動脈に50 mm大のAAAを認め,全身麻酔下にEVARを施行した.瘤から腎動脈分岐部までの中枢neck長が約10 mmと短かったが,腎動脈分岐部直下からステントグラフト(Endurant II)を留置し,endoleakなく手術終了となった.全手技を通して,平均血圧(MAP)はおおむね60 mmHg以上で経過し,カテーテル操作中のACTは240秒以上であった.術後,手術室で抜管し,四肢麻痺がないことを確認した.ICU帰室から約5時間後,両下肢の麻痺が出現したため,緊急で昇圧,脊髄ドレナージ,ステロイド投与などを行ったが,明確な改善には至らなかった.EVAR後の対麻痺は非常に稀な合併症ではあるが,その可能性を念頭に置いた慎重な周術期管理が必要であると考えられた.
症例は70歳,男性.B型解離の既往があり弓部大動脈の嚢状瘤と慢性解離性大動脈瘤の治療目的で入院した.造影CTで弓部および下行大動脈に内腔に突出した動脈硬化性粥腫を多数認めた.粥腫飛散による塞栓の予防のためAnterolateral thoracotomy with partial sternotomyにて通常の1/2の送血量で冷却後,脳分離体外循環とし全胸部大動脈置換術を行った.術後臓器障害を認めず,脳・脊髄合併症もなく独歩退院した.送血流ジェットでの粥腫破壊を防ぐための低灌流法は冷却過程においても心拍出を継続しながら総循環量を維持でき,酸素需要供給バランスを崩すことなく安全に行える塞栓予防方法であると思われる.
症例は83歳,女性.78歳時に他院で遠位弓部から下行に及ぶ胸部大動脈瘤に対し,右腋窩動脈から左総頸動脈および左腋窩動脈へのバイパス術とzone 1を中枢landingとする胸部大動脈ステントグラフト留置術(TEVAR)を施行された.遠隔期に中枢landing zoneが拡大し,type 1 endoleakによる瘤拡大を認めたため,人工血管置換術による再建を行った.術中所見では,中枢のステントグラフト径は40 mmであり,大動脈径は45 mmと拡大していたため,26 mmのカラー付き人工血管を用い,大動脈壁で覆ったステントグラフト中枢端に人工血管のカラー部分を吻合し,再建に成功した.
腹部大動脈修復部位の感染破綻により大動脈破裂を発症した症例に対して,Chimney techniqueを用いて止血術を行い救命した症例を経験したので報告する.症例は62歳,女性.下行結腸癌術後リンパ節転移に対して4回の手術歴があり,4回目の術中に腹部大動脈を損傷し血管修復術と左腎臓摘出術を行った.術後,直腸吻合部の縫合不全による腹膜炎を発症し,大動脈修復部位の感染にひき続いて大動脈破裂を発症した.破裂部位は左腎動脈レベルの近傍であった.大動脈破裂症例であること,腹腔内や後腹膜に高度の癒着が予想され開腹による直接止血は困難であることを考慮し,ステントグラフト留置にはややネック長は短かったが,Chimney techniqueを用いて止血術を行った.術後,endoleakや腎機能悪化を認めず,救命することができた.大動脈破裂症例に対するChimney techniqueは緊急時の治療選択の1つとして有用と考えられた.
今回われわれは,Capnocytophaga ochracea(C. ochracea)を起炎菌とするEndovascular Aortic Repair(EVAR)後の腹部大動脈瘤破裂に対して,緊急開腹手術を施行し,救命できたので報告する.C. ochraceaは口腔内に常在する菌で,それによる感染症の報告は非常に稀で,C. ochraceaによる感染性動脈瘤,ステントグラフト感染の報告はいまだになく,貴重な症例と考える.症例は4年前に腎動脈直下の腹部大動脈瘤に対して,EVARを施行した77歳男性.齲歯の抜歯後2週間経過し,原因不明の発熱とCRP高値のため近医で抗生剤内服加療されていたが,改善なく,当院紹介受診となった.大動脈造影CTにて血栓化腹部大動脈瘤の急速な拡大とともに,瘤外への液体貯留を認め,感染による瘤壁の破壊が疑われたため,ただちに緊急開腹手術を施行した.術中所見としては,瘤内に多量の膿の貯留と瘤左側後方に4 cmの破裂孔を認め同部位から左後腹膜に膿の貯留を認めた.ステントグラフト感染も合併していると考え,ステントグラフトをすべて抜去し,感染瘤壁の除去,入念なデブリードメントを施行後,Y型人工血管置換術,大網充填術を施行した.瘤内の汚染組織,感染瘤壁より,C. ochraceaが検出されたため,術後6週間,抗生剤治療を行い,感染の再燃はなく,術後49日目に独歩退院となった.EVAR後のC. ochraceaによるステントグラフト感染,感染性動脈瘤については,今後注意すべき起炎菌の1つとして念頭に置くべきであろう.
冠動脈のmalperfusionと対麻痺はともに頻度は少ないものの,Stanford A型急性大動脈解離の重篤な合併症であり,これらが併発したきわめて稀な症例を経験した.右冠動脈のmalperfusionに対し,血行動態が安定していたため大動脈解離手術を優先した.偽腔の圧迫がとれ,良好な右冠動脈血流の再開が得られた.対麻痺に対しては術前の偽腔血栓閉塞による脊髄虚血が疑われたが,術直後よりスパイナルドレナージ,ナロキソンの投与,ステロイドの投与を行い,麻痺を残さず独歩退院し得た.
84歳,女性.マルファン症候群と診断されており,濃厚な家族歴を有していた.59歳時に大動脈弁輪拡張症に対するBentall手術,80歳時に急性B型大動脈解離を発症し,以後,腹部大動脈置換術,全弓部置換術を施行されていた.84歳時に背部痛をきたし,近位下行大動脈に生じた新たな内膜亀裂による三腔解離と急速拡大を認めた.症状が持続し,高齢であることから,ステントグラフト内挿術(TEVAR)によるエントリー閉鎖を施行した.術後CTで偽腔内への順行性の血流は認めず,両腔吻合されていた腹部人工血管置換術の中枢側吻合部からの逆行性血流を認めるのみであった.術後4年の現在,下行大動脈の拡大は認めていない.マルファン症候群患者に対するTEVARの適応は限られるが,高齢患者の場合には選択肢の1つになりえると思われた.
成人の症候性大動脈狭窄症は,二次性高血圧症や心不全,腹部臓器灌流障害,下肢虚血などの合併症をひき起こすため,内科的管理による予後は不良である.カテーテルを用いた血管内治療や外科的手術の報告があるが,治療法について一定の見解は得られていない.症例は82歳女性,高血圧と心不全で入院し,内科的管理に難渋したため手術の方針とした.人工心肺による循環補助を使用し,心停止下で中枢側吻合を行い,上行大動脈から腹部大動脈へのバイパス術を施行した.大口径人工血管を心嚢腔から直接後腹膜腔へ誘導した非解剖学的な経路であった.高侵襲手術であったが,良好な転帰をたどった.本治療例がmiddle aortic syndromeに対する根治治療の1つとして有用と考えられたため報告する.
近年になり外科医の働き方改革が取り上げられるようになり,若手外科医の修練環境の改善,専門医取得などの外科医としてのキャリアパスについても議論されるようになってきた.U-40会員の中で現在の修練環境から将来の進路に悩みを持っている人は多いであろう.今回,第50回日本心臓血管外科学会U-40特別企画として,若手心臓外科医・血管外科医が現在の修練環境をどのように考え,将来の自分の姿をどのようにイメージしているのかを,主にU-40幹事を対象としたアンケートをまとめたので報告する.