2021 年 50 巻 3 号 p. 188-192
症例1.44歳女性.29歳時に大動脈弁狭窄症に対して弁形成術が施行されている.多量腹水貯留による腹部膨満を訴え,消化器科,婦人科で加療されたが改善しなかった.大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症,完全房室ブロックを認め,心原性腹水との判断から,大動脈弁置換術,三尖弁輪形成術,ペースメーカー植込み術を施行した.腹水は経時的に減少し,術後6カ月の時点で消失していた.症例2.61歳男性.主訴は腹部膨満と呼吸困難で多量の腹水貯留を認めた.既往のアルコール性肝障害が原因と考え薬物治療を行ったが,改善しなかった.大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症を合併していたため心原性腹水と判断し,大動脈弁置換術を施行したところ,術後6カ月で腹水は消失した.いずれの症例も術前の右心カテーテル検査で肺動脈楔入圧が高値であり,左心不全が示唆された.腹水貯留は大動脈弁膜症の症候としては稀だが,薬物治療の反応が乏しいことがあり,左心不全を疑う場合には積極的に手術を行う必要があると考えられた.