2021 年 50 巻 3 号 p. 201-206
症例は52歳女性.不穏状態で来院し胸部CTで多量の心嚢液と主肺動脈内腔狭窄・周囲腫瘤影を認めた.心嚢水細胞診や経カテーテル組織診では確定診断できず,胸腔鏡での生検も困難であったため,胸骨正中切開にて生検を行い肺動脈内膜肉腫と診断した.腫瘍は急速増大し,右心不全が顕在化し生検1カ月後に外科的右室流出路狭窄解除が必要となった.手術所見で心嚢内に広範な癒着を認め,腫瘍は大動脈基部周囲まで浸潤していた.可及的腫瘍切除,肺動脈基部・左右肺動脈再建,Bentall術を施行し,化学療法を継続しつつ自宅退院した.その2カ月後に,冠動脈起始部狭窄による急性心不全を発症し再入院したが,PCIにより救命し自宅に再度戻ることが可能となった.しかし最終的には,その約3カ月後に永眠された.肺動脈内膜肉腫はきわめて稀な予後不良疾患である.一般的に腫瘍は肺動脈末梢方向に進行して肺動脈塞栓症に類似した臨床像を呈するとして知られるが,大動脈基部に浸潤する場合も考慮すべきである.術後経過は不良であったが,腫瘍切除術による数カ月の延命は本人と家族の希望に適うものであった.