2023 年 52 巻 1 号 p. 29-33
64歳男性.16歳時に僧帽弁閉鎖不全症に対してBjörk-Shiley Delrin弁(非カーボン製ディスク)を用いた僧帽弁置換術(MVR)を当科で施行した.手術後は年に1度の経胸壁心臓超音波検査が施行され,一貫して軽度の僧帽弁閉鎖不全症(MR)を認めるのみであったが,術後45年目からMRの増悪と労作時呼吸苦が出現するようになった.経食道心臓超音波検査による精査を行ったところ高度のtrans valvular leakageを認めたため人工弁機能不全と診断し,術後47年目に再MVRを施行した.摘出した弁の解析からはDelrin製ディスクの消耗により弁座との間隙が開大したことによりMRの増悪を生じたと考えられた.Björk-Shiley弁の登場から半世紀が経過し,きわめて長期間弁機能不全を生じることなく経過した症例を経験したため文献的考察と当科でのこれまでの使用成績を併せて報告する.