日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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52 巻, 1 号
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巻頭言
症例報告
[先天性疾患]
  • 北條 竜司, 中島 淳博, 手島 英一, 富永 磨, 樋口 真哉, 益田 宗孝, 富永 隆治
    2023 年 52 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳の女性.生直後より房室中隔欠損症を指摘されるも手術加療は行われなかった.今回心不全症状が出現し,加療目的に当院へ紹介となった.不完全型房室中隔欠損症(肺体血流比 4.46,中等度の左側房室弁逆流,心房粗動の診断となった.術中診断は膜様の心室中隔瘤を伴う中間型房室欠損症で,自己心膜パッチによる房室中隔欠損孔の閉鎖,左側房室弁形成術,右側房室弁形成術,不整脈手術を施行した.術後は心不全症状なく経過し,術後16日目に当科退院となった.本邦で高齢者の不完全型/中間型房室中隔欠損症の手術報告例は少ない.しかし,不完全型/中間型房室中隔欠損症は加齢とともに2次性変化により,心房細粗動や心不全などを発症する.外科治療成績は良好で運動耐容能の改善が期待されるため,高齢者であっても積極的に適応評価,外科的介入を行うべきだと考えられる.

[成人心臓]
  • 田邉 信, 別所 早紀, 中村 文, 小暮 周平, 伊藤 久人, 庄村 遊, 高尾 仁二
    2023 年 52 巻 1 号 p. 5-8
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は73歳女性.横行結腸癌の術前心エコー検査で冠動脈異常を指摘され,冠動脈CT検査および冠動脈カテーテル検査にて冠動脈瘤および冠動脈静脈瘻と診断された.冠動脈静脈瘻は冠動脈-肺動脈瘻で,肺動脈周囲に異常血管を認め,一部が瘤化していた.瘤は右冠動脈由来(径28 mm),左冠動脈由来(径16 mm,12 mm)と多発冠動脈瘤であった.心不全徴候なく無症状であったが,1年前の心エコー検査では冠動脈瘤を指摘されておらず,瘤の拡大傾向を認めていたことから,破裂予防目的に手術治療を行った.手術は胸骨正中切開,人工心肺を用い心停止下に行った.冠動脈瘤を切開し流入および流出動脈の開口部を瘤内部より縫合閉鎖した.冠動脈-肺動脈瘻に対しては結紮閉鎖した後,肺動脈幹を切開して冠動脈-肺動脈瘻の肺動脈への流出部を確認しながら完全閉鎖した.術後心エコーにて冠動脈-肺動脈瘻のresidual shunt血流の消失を確認し,冠動脈CT検査では冠動脈瘤および冠動脈-肺動脈瘻の消失を認めた.経過は順調で術後12日目に独歩退院した.

  • 梅田 璃子, 中島 智博, 伊庭 裕, 保坂 到, 大川 陽史, 安田 尚美, 柴田 豪, 仲澤 順二, 川原田 修義
    2023 年 52 巻 1 号 p. 9-13
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は72歳女性.2014年より全身性エリテマトーデス,抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid antibody syndrome; APS)加療のために通院中であった.2020年にリウマチ性重症僧帽弁狭窄症(mitral valve stenosis; MS)により労作時息切れが出現し,あわせて発作性心房細動と冠動脈狭窄を指摘され,手術の方針となった.手術は僧帽弁置換術+三尖弁輪形成術+冠動脈バイパス+肺静脈隔離術+左心耳閉鎖術を行った.APSによる活性化凝固時間(active clotting time; ACT)延長に対する対策として,術中の人工心肺における抗凝固管理は,HMS PLUSを用いて血中ヘパリン濃度指標下に抗凝固管理を行った.周術期に出血性合併症や血栓塞栓症は認めず,術後23日目に自宅退院した.今回,APS患者の人工心肺を用いた開心術において,目標ヘパリン濃度を3.5 U/mlに設定しHMS PLUSによるヘパリン濃度測定下に抗凝固管理を行い,合併症なく経過したため報告する.

  • 生地 みづ穂, 本田 賢太朗, 上松 耕太, 國本 秀樹, 中村 諒, 田島 幸治, 金子 政弘, 西村 好晴
    2023 年 52 巻 1 号 p. 14-17
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    左室右房交通症は先天性にも後天性にも生じうる稀な疾患である.近年心臓手術件数の増加や診断技術の向上に伴い,後天性の左室右房交通症の報告が増加傾向にある.われわれは大動脈弁位感染性心内膜炎による後天性左室右房交通症の1例を経験したので報告する.症例は52歳男性.増悪する労作時呼吸困難感,下腿浮腫を主訴に前医を受診した.採血検査にて炎症所見が高値であり,経胸壁心エコーにて大動脈弁に疣腫を認めたため,当院循環器内科に入院となった.感染性心内膜炎の診断に対して抗菌薬および心不全加療を開始され,術前に施行した心臓CTにて左室右房交通症の診断を得た.手術加療の方針となり,欠損孔を右房側と左室側より自己心膜パッチで2重に閉鎖し,機械弁を用いて大動脈弁置換術を行った.術後経過は良好であった.

  • 寺田 拡仁, 川幡 大嗣, 中村 圭佑, 中川 博文, 奥山 浩, 南渕 明宏
    2023 年 52 巻 1 号 p. 18-23
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    39歳男性,3日前からの発熱,呼吸困難を主訴に救急搬送された.心エコーで大動脈弁に可動性のある10 mm大の疣贅と高度の弁逆流を認めたため,感染性心内膜炎と診断した.初診時の血液検査で心筋逸脱酵素の上昇や局所の壁運動低下はなく,急性冠症候群は否定的であった.同日,泡沫痰を伴う急性心不全を呈したため,緊急手術を行った.左右冠尖と大動脈壁が高度に破壊されており,機械弁による弁置換と自己心膜による大動脈弁輪の再建をした.心内修復後に冠血流を再開したが,前壁運動が極度に低下しており,人工心肺を離脱することができなかった.疣贅による左冠動脈前下行枝(left anterior descending coronary artery; LAD)の閉塞を疑い,再度心停止下でLADに静脈グラフトを用いたバイパス手術を追加した.バイパス追加後の壁運動は改善し,辛うじて人工心肺を離脱することができた.術後脳梗塞を発症し,リハビリを要したが,術後74日目に軽快退院した.退院後に冠動脈の評価を行い,LADに遊離した疣贅によると思われる閉塞を認めた.術前に冠動脈評価はなされなかったが,幸いにもLADの閉塞部より末梢にバイパスが吻合されていた.現在3年2カ月が経過し,感染の再発なく社会復帰している.今回,術中に冠動脈塞栓症を発症し,人工心肺の離脱が困難となった患者に対してバイパス手術を追加したことで救命し得た経験をしたので文献的考察を加えて報告する.

  • 杉本 聡, 山下 知剛, 安達 昭, 山内 英智
    2023 年 52 巻 1 号 p. 24-28
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura: ITP)を合併した心臓手術は,周術期の免疫グロブリン大量静注療法や血小板輸血の有効性が報告されているが,その効果は一過性と考えられている.ITP初発例に対してデキサメサゾン大量療法は即効性と寛解が期待できるとの報告があるが,ITP合併心臓手術の周術期に用いられた報告はこれまでにない.今回われわれは,ITP合併心筋梗塞に対して術前にデキサメサゾン大量療法を施行した冠動脈バイパス術の1治験例を報告する.症例は70代,男性.ITPの既往あり.安静時胸苦で救急搬送され心筋梗塞と診断された.冠動脈造影で右冠動脈閉塞を含む3枝病変を認めたが,血小板数は4.9万/mm3と低値で,周術期の出血が危惧されたため責任病変の右冠動脈にPCIを先行した.ITPに対し免疫グロブリン大量療法とデキサメサゾン大量療法を施行し,血小板数が10.3万/mm3まで増加安定したところで,左冠動脈残存病変に対して冠動脈バイパス術を施行した.周術期に出血性合併症なく良好に経過した.ITPに対するデキサメサゾン大量療法は効果発現が早く,早期の手術介入が必要な症例において有効な選択肢の1つと考えられた.

  • 池田 諒, 菊地 千鶴男, 坪子 侑佑, 池原 大烈, 渡邊 冴基, 山田 有希子, 市原 有起, 浜崎 安純, 岩﨑 清隆, 新浪 博士
    2023 年 52 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    64歳男性.16歳時に僧帽弁閉鎖不全症に対してBjörk-Shiley Delrin弁(非カーボン製ディスク)を用いた僧帽弁置換術(MVR)を当科で施行した.手術後は年に1度の経胸壁心臓超音波検査が施行され,一貫して軽度の僧帽弁閉鎖不全症(MR)を認めるのみであったが,術後45年目からMRの増悪と労作時呼吸苦が出現するようになった.経食道心臓超音波検査による精査を行ったところ高度のtrans valvular leakageを認めたため人工弁機能不全と診断し,術後47年目に再MVRを施行した.摘出した弁の解析からはDelrin製ディスクの消耗により弁座との間隙が開大したことによりMRの増悪を生じたと考えられた.Björk-Shiley弁の登場から半世紀が経過し,きわめて長期間弁機能不全を生じることなく経過した症例を経験したため文献的考察と当科でのこれまでの使用成績を併せて報告する.

  • 和田 健史, 迫 秀則, 木津 謙也, 永島 瞭太朗, 髙山 哲志, 宮本 伸二
    2023 年 52 巻 1 号 p. 34-36
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は56歳女性,経胸壁心エコー検査で肺動脈弁に腫瘤影を指摘され当科紹介.肺動脈弁の腫瘍を疑い,手術の方針となった.完全内視鏡下アプローチでの手術を考えたが,肺動脈弁に対する同手術の報告はなかったため,完全内視鏡下での手術完遂が困難な場合には直視下小開胸手術に切り替える計画とした.左第3および4肋間に計3つのポートを作成し,on-pump beating下に手術を行った.肺動脈を切開し,肺動脈弁を確認すると左半月弁の過形成を認め,これが弁瘤状に見えたものであった.切除は行わずそのまま閉創した.肺動脈弁に対する完全内視鏡下アプローチはこれまで報告がなく,本術式は肺動脈弁に対する低侵襲なアプローチとして,新たな治療の選択肢となる可能性があるため報告する.

  • 愛知 千明, 今村 有佑, 玉置 基継, 北村 英樹
    2023 年 52 巻 1 号 p. 37-40
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は51歳男性,心窩部痛のため前医を受診し冠動脈CTにて偶発的に心房中隔欠損(ASD)を指摘され,精査目的に当院紹介となった.経胸壁心エコー,および経食道心エコーでは正確な病型の診断は困難であったが,冠動脈CT検査からCSASDと診断された.CSASDには左上大静脈(LSVC)遺残が合併しやすいことが知られているが,本症例ではLSVCの合併は認めず,またその他の解剖学的異常を認めなかったため完全内視鏡下低侵襲心臓手術(MICS)法による外科的閉鎖術を選択した.手術は左半側臥位で行い,右第4肋間中腋窩線から内視鏡ポートを作製した.右側胸部に約4 cmの皮膚切開をおき,右第4肋間で開胸.右大腿動脈,大腿静脈より人工心肺を確立した後,右側左房切開で左房内を観察した.欠損孔は僧帽弁の腹側かつ尾側に存在しており,これをトリミングしたウシ心膜パッチで閉鎖した.術後経過は良好で7PODに退院し,心エコーでは遺残シャントを認めなかった.本症例のように,LSVCを合併しないCSASDに対しては完全内視鏡下MICSによる右側左房アプローチでの閉鎖術が有効であると考えられた.

[大血管]
  • 西野 純史, 尾﨑 公彦, 宮原 拓也, 荻原 正規
    2023 年 52 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例1は70歳男性.既往に胆石症,左鼠径ヘルニアを有する.鼠径ヘルニア術前精査にて縦郭陰影の拡大を指摘され,当科紹介受診.精査にて右側大動脈弓,右側下行大動脈,憩室形態の下行大動脈と診断,手術加療の方針とした.自覚症状や心内奇形,他の心血管疾患は認めなかった.手術は右後側方第4肋間開胸,下半身部分体外循環にて憩室を含む下行大動脈置換術を予定した.しかし,中枢側遮断部の大動脈内膜損傷から低体温脳循環停止,open proximal法で中枢側吻合を行った.術後経過は問題なく,術後19病日に独歩退院.症例2は51歳女性.中国で出生し,15年前より日本に在住している.特記すべき既往症なし.健康診断にて施行した胸部Xpにて異常陰影を指摘,胸部CTにて大動脈奇形が疑われ当科紹介受診.右側大動脈弓,右側下行大動脈,左鎖骨下動脈起始異常,Kommerell憩室の診断となった.自覚症状なく,心内奇形も認めなかった.手術は二期的手術の方針とした.初回手術として,胸骨正中切開で左鎖骨下動脈胸腔内再建を伴う全弓部置換術,オープンステントグラフト内挿術を行い,Kommerell憩室はオープンステントグラフトでカバーした.憩室そのものは背側に位置し,処理は行わなかった.術後15病日にKommerell憩室から左鎖骨下動脈起始部の塞栓術を行った.術後経過は問題なく,術後19病日独歩退院となった.右側大動脈弓に合併した下行大動脈憩室,Kommerell憩室は種々の手術方法が報告されている.文献的考察を加え報告する.

  • 綾田 亮, 高橋 雅弥, 池田 宜孝, 森景 則保, 伊東 博史
    2023 年 52 巻 1 号 p. 46-49
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    高安動脈炎は大動脈弁輪拡張症や冠動脈入口部狭窄をきたし開心術を施行することがあるが,術後に仮性動脈瘤を認めることがあり,治療に難渋する.今回われわれは複数回の開胸術の既往がある患者の上行大動脈大伏在静脈吻合部仮性動脈瘤に対して胸部ステントグラフト内挿術を施行した症例を経験したので報告する.症例は61歳女性.30歳時に大動脈弁輪拡張症,大動脈弁閉鎖不全症,右冠動脈入口部狭窄に対して大動脈弁置換術,冠動脈バイパス術が施行された.術後11年に上行大動脈瘤を認め,Bentall手術が施行された.その後も複数回の開胸術の既往があり,上行大動脈に仮性動脈瘤を認めていた.喀血を主訴に救急搬送され,上行大動脈大伏在静脈吻合部仮性動脈瘤破裂の診断となった.上行大動脈ステントグラフト内挿術を行い,術後合併症なく,術後18日目に自宅退院した.上行大動脈に対するステントグラフト内挿術は高リスク患者には低侵襲で有用な手術と考えられる.

  • 田村 智紀, 村井 佑太, 竹谷 剛, 宝来 哲也
    2023 年 52 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は48歳女性,整形外科で手関節の手術を予定されていた.術前検査で偶発的に両側肺野粒状影を認め精査で粟粒結核と診断された.同時に腎動脈上腹部大動脈嚢状瘤と胸部下行大動脈嚢状瘤を認めた.抗結核薬4剤投与で治療開始されたが2カ月の経過で腹部大動脈瘤の急速拡大を認め手術の方針とした.手術は部分体外循環下に左開胸で胸部下行大動脈を遮断,腹部正中切開で腎動脈下腹部大動脈を遮断し腎動脈上の仮性動脈瘤を切除しリファンピシン浸漬人工血管によるパッチ閉鎖術を施行した.また同時に胸部大動脈瘤に対して胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)を施行した.腹部大動脈瘤の培養検査でMycobacterium tuberculosisを検出し結核性大動脈瘤と診断した.術後経過は良好であり,抗結核薬投与を継続し第36病日に退院した.術後7カ月が経過した現在,抗結核薬内服は継続しており再発を認めていない.

  • 大竹 悟史, 川原 優, 古仲 美貢, 大塲 栄一, 山下 淳, 阿部 和男, 鈴木 耕太郎, 本郷 哲央, 宮本 伸二
    2023 年 52 巻 1 号 p. 55-58
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    76歳,男性.弓部大動脈瘤にてNajutaを用いた1-debranch TEVARを施行したが,術後に開窓部からのエンドリークが出現し動脈瘤が拡大した.開窓部からのエンドリークに対し,チムニー法やradial forceの強いステントグラフトでの裏打ちなどの追加TEVAR,動脈瘤の直接穿刺による塞栓術などの報告はあるが確立した治療法はいまだない.今回われわれはエンドリーク残存のリスクが少なく,遠隔予後も期待できると考え,Squid-Capture法によるin situ stent-graft fenestrationを用いたZone 0 TEVARを施行した.脳分離循環を行いin situ stent-graft fenestration中の脳血流を確保し,また塞栓予防のために大動脈内の手技に移る前に,頸部分枝中枢の遮断を行った.内骨格構造のNajutaの内部での煩雑なカテーテル操作は難易度がやや高いが,デバイスが内骨格と干渉し不都合な事象が起こらないよう,バルーンによる試験拡張でのワイヤールートの確認,腕頭動脈末梢へのTAG留置による内骨格構造の無効化,Squid-Capture法によるデバイス穿刺の安定性確保など,工夫を凝らして手術を行った.エンドリークは完全に消失し,術後2年間問題なく経過している.本法は治療の難しいNajuta開窓部からのエンドリークの治療として,有用な方法であると考える.

  • 林 拓人, 鈴木 文隆, 伊藤 卓也, 砂田 将俊, 前場 覚
    2023 年 52 巻 1 号 p. 59-61
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    胸部ステントグラフト内挿術時に,左椎骨動脈単独起始(Isolated left vertebral artery: ILVA)の閉鎖を余儀なくされる場合,ILVA再建の要否については統一した見解がない.症例は57歳女性.弓部大動脈にILVAのanomalyがあった.潰瘍様突出像を伴う血栓閉塞型Stanford B型急性大動脈解離に対し保存的降圧療法を行った.一年後に潰瘍様突出像の拡大と偽腔の拡大を認め胸部ステントグラフト内挿術の適応とした.ILVAの閉鎖が想定されたため,ILVA-左総頸動脈バイパス術,左総頸動脈-左腋窩動脈バイパス術を施行後に胸部ステントグラフト内挿術を施行した.術後経過は良好で合併症は認めなかった.ILVA再建は,脳梗塞,脊髄虚血の予防効果が期待され,解剖学的特性から手技が容易なため,積極的に再建した1例を報告する.

  • 上田 遼馬, 江﨑 二郎, 本田 正典, 工藤 雅文, 松尾 武彦, 岡林 均
    2023 年 52 巻 1 号 p. 62-66
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    Shaggy aortaを呈する大動脈瘤手術では,塞栓症を回避する手術戦略が重要である.症例は75歳男性.最大短径60 mmの下行大動脈瘤を認め,遠位弓部大動脈から腹部大動脈にかけてshaggy aortaを呈しており,主要分枝血管保護下でのTEVARの方針とした.手術では左鎖骨下動脈と左総腸骨動脈入口部をバルーン(OPTIMO PPI)で閉鎖し,上腸間膜動脈入口部にフィルター(Filtrap)を留置し,右総腸骨動脈入口部まで22 Frのシース(ドライシール)を留置して塞栓症を予防した上で,Gore C-TAGを留置した.術後脳梗塞や,腸管・腎・下肢塞栓症,脊髄虚血症状などの合併症を認めず,8日目に自宅退院した.Shaggy aortaを呈する胸部下行大動脈瘤に対するTEVARにおいて,主要分枝血管へのバルーン閉鎖やフィルター留置は,塞栓症予防に有効であると考えられた.

  • 山内 英智, 杉本 聡, 山下 知剛, 安達 昭
    2023 年 52 巻 1 号 p. 67-70
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性.6年前肺門リンパ節腫脹を認めサルコイドーシスの診断となる.そのときのCT画像で無症候性のStanford A型大動脈解離像を認めていた.1年前の胸部レントゲンで明らかな心拡大を認めたため精査目的で心エコーを行ったところ高度大動脈弁閉鎖不全(AR)を認めた.造影CTで以前と同様の上行大動脈内の亀裂内膜と思われる所見を認めたため手術目的で当科紹介となった.経胸壁心エコーで左室拡張末期径(LVEDD)61 mmの心拡大とAR 3/4度を認め,造影CTで上行大動脈内のやや末梢に亀裂内膜と思われる幅3 mm程度の索状物様構造物(線状影)を認めたがエントリーや偽腔は明らかではなかった.上行大動脈内の構造物は通常の大動脈解離とは異なる印象であったが慢性大動脈解離ではあり得るものと判断し手術を施行した.術中所見ではCTで見られた線状影は解離ではなく内膜による索状物であり,これを切除するとともに生体弁による大動脈弁置換術(AVR)と上行大動脈人工血管置換術を行った.経過は良好で術後11日目に自宅退院となった.病理所見では索状物は血管内膜からなり炎症細胞浸潤は認めなかった.大動脈壁に解離はなく炎症性細胞浸潤も認めなかった.非常に稀な偽性大動脈解離の画像を示した大動脈内intimal bandの1例を経験した.術前に解離を完全に否定することは困難であり,また術前診断は確立しておらず大動脈解離に準じた準備が必要と考えられる.

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