日本心臓血管外科学会雑誌
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症例報告[大血管]
心タンポナーデで発症した巨大左バルサルバ洞動脈瘤破裂例
田中 仁那須 通寛井内 幹人
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2023 年 52 巻 3 号 p. 185-188

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抄録

症例は63歳男性,突然の胸部圧迫感,四肢冷感を主訴として救急搬送された.既往歴として肺非定型抗酸菌症のため11年間の3剤併用療法(クリンダマイシン,リファンピシン,エタンブトール)を行っている.造影CTで左バルサルバ洞は5.8cmに拡大しており,経胸壁心エコーでは高度の大動脈弁逆流,心タンポナーデにより右心房・右心室が圧迫されていた.検査中に血行動態が不安定となり気管内挿管を行い,カテコラミン投与下に手術場へ緊急搬送した.右大腿動静脈バイパス下に胸骨正中切開し,心嚢を切開したところ心嚢内は暗赤色血液で充満していた.心停止下に上行大動脈を切開したところ左バルサルバ洞全体が大きく拡大しており,正常組織を認めず,瘤壁は肺動脈∙左心房と固く癒着していた.左前下行枝・左回旋枝は個別に直接バルサルバ洞より起始しており,左主幹部は動脈瘤壁の一部となっているように考えられた.術後もリファンピシンを服用しなければならずワーファリンの作用を減じる可能性が高い.確実な逆流の制御が必要であり救命的措置手術であったため,自己弁温存手術よりは生体弁を用いたBentall手術を基本とすることにした.冠動脈再建は右冠動脈にはCarrel patch法を用い,左冠動脈は左前下行枝,回旋枝にそれぞれ大伏在静脈を用いたバイパス術を行うこととした.末消側吻合はできるかぎり冠動脈の中枢側本幹にて行い,中枢側吻合部は人工血管に行った.出血制御のため2日間のdelayed sternal closureとした.心機能に問題なく術後33日目に退院し,5年目の現在外来にて3剤併用療法を継続しており経過観察中である.

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