日本心臓血管外科学会雑誌
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52 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • -僧帽弁輪石灰化切除か温存か-
    吉田 稔, 磯村 正, 宮崎 卓也
    2023 年52 巻3 号 p. 143-148
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    [背景]僧帽弁輪の広範囲な高度な石灰化(MAC)病変の存在は僧帽弁手術において手術手技を困難にさせる大きな因子となり予後を左右する.石灰化が広範囲に僧帽弁輪に存在することにより直接には僧帽弁輪に縫合糸が刺入できず,僧帽弁置換術(MVR)後に人工弁輪周囲リークや左室破裂,術後の心不全を生じる可能性がある.今回MAC存在下での僧帽弁手術について手術法の違いによる結果を比較検討した.[対象と方法]2005年以降に施行した1,327例の僧帽弁手術のうち高度の僧帽弁輪石灰化をみとめMVRを施行した25例(1.9%)を対象とした.平均年齢は75±9歳で,男性6,女性19で,血液透析は4例であった.合併手術は大動脈弁置換術19例,冠動脈バイパス術4例であった.MACを切除したものは14例(R群)でMACを切除しなかったもの11例(E群)であった.[結果]院内死亡率はR群4例で死因は術後の心不全2例,脳梗塞1例,呼吸不全1例によるものであった.大動脈遮断時間は,R群で平均180±44分(108~266分),E群で139±32分(61~186分)で有意差を認めた(p=0.009).人工弁サイズはR群14例で24.3±1.0 mm,E群12例で24.6±0.8 mmであった(p=0.618).術後の心エコー検査では,両群とも,僧帽弁の平均圧格差で人工弁の狭窄パターンを示すものはなく,弁周囲リークも認めなかった.[結論]高度に石灰化した僧帽弁輪における石灰化温存のMVRは石灰化除去による術式に比べ,高齢患者に対して安全で効果的なアプローチと考えられた.

  • 山元 隆史, 茂木 健司, 櫻井 学, 長濱 真以子, 高原 善治
    2023 年52 巻3 号 p. 149-153
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    [目的]胸部大動脈人工血管置換術後の無菌性膿瘍の報告は稀である.胸部大動脈人工血管置換術後中期から遠隔期に感染徴候がないものの人工血管周囲に液体が貯留し,さらに体表に膨隆し外科的治療を要する症例に対する当院での治療の妥当性について検討した.[対象]2013年4月~2020年3月に基部から弓部大動脈人工血管置換術を施行した341例のうち,術後中期から遠隔期に人工血管周囲に液体が貯留し,前頸部等の体表に膨隆した4例を対象とした.これらは術後平均10.3(3~27)カ月後に体表に膨隆し発症し,全例に大網充填術を施行した.[結果]貯留していた液体は漿液性ではなく膿性であり,複数回の細菌培養検査でも菌は検出せず,膿性でありながら菌を検出しない無菌性膿瘍と考えられた.大網充填術後平均5.4(1~8.5)年経過しているが再発は認めない.[結論]胸部大動脈人工血管置換術後中期から遠隔期に発症した無菌性縦隔炎は大網充填術により再発を認めず,有効な治療法であると考えられる.

症例報告[成人心臓]
  • 坂井 亜依, 池田 真浩
    2023 年52 巻3 号 p. 154-158
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    サラセミアは溶血性貧血を呈する遺伝性疾患であり,人工心肺の使用により溶血が増悪するため注意が必要であるとされているが,サラセミア患者の開心術の報告は少ない.サラセミア患者の大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症と上行大動脈瘤の外科治療を経験したため報告する.症例は69歳女性で,二尖弁による重症大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症と最大短径49mmの上行大動脈瘤を指摘され,当院紹介となった.小球性貧血の精査でβサラセミアと診断された.手術は中等度低体温循環停止,逆行性脳潅流併用下に,上行大動脈置換術に続いて生体弁での大動脈弁置換術を行った.人工心肺には非拍動流の遠心ポンプを使用し,吸引回路とベント回路は低回転数で使用した.溶質貯留に備えDilutional ultrafiltration(DUF)を施行し,溶血による人工肺閉塞に備えて人工肺交換用回路を接続した.重篤な溶血を呈することなく,経過良好で術後20日目に退院した.術前にサラセミアを認識し,十分に治療戦略を立てることが重要であると考えられた.

  • 平山 大貴, 真鍋 晋, 弓削 徳久, 齋藤 友宏
    2023 年52 巻3 号 p. 159-162
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は84歳男性,2カ月前より全身倦怠感,数日前より安静時呼吸困難となり近医を受診した.心臓超音波検査で心室中隔基部に1.5 cmの欠損孔と左右シャント血流を認めた.亜急性期心筋梗塞による心室中隔穿孔の診断で緊急手術を施行した.右房斜切開すると三尖弁中隔尖の直下に穿孔部位を認めた.ウシ心のう膜パッチを用いたsandwich patch法で穿孔部位を閉鎖した.術後は遺残シャントなく,順調に経過し,第18病日にリハビリ目的で転院となった.

  • 上野 和寛, 平尾 慎吾, 中野 穣太, 山下 剛生, 菅谷 篤史, 小宮 達彦
    2023 年52 巻3 号 p. 163-167
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    心臓原発の乳頭状弾性線維腫は比較的稀な腫瘍であり,心臓超音波検査などで偶発的に発見されることが多い.肥大型心筋症の経過観察中に心臓超音波検査で多発性乳頭状弾性線維腫が見つかり,自己弁温存腫瘍切除術を施行した症例を報告する.患者は71歳男性で,右冠尖の正中から左冠尖寄りの心室中隔に10mm大の腫瘍があり,左冠尖,右冠尖の左室側にもそれぞれ3mm大の腫瘍が付着していた.患者に自覚症状はなかったが,可動性の腫瘍であったため,塞栓予防および確定診断のため手術適応とした.心室中隔の腫瘍は周囲の心内膜および一部心筋とともに切除し,弁尖部腫瘍は可及的に切除し,自己弁は温存した.いずれも病理組織学的には乳頭状弾性線維腫であり,術後の経過は良好であった.

症例報告[大血管]
  • 坂本 龍之介, 高橋 雅弥, 池田 宜孝, 伊東 博史
    2023 年52 巻3 号 p. 168-171
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は81歳男性.嗄声を主訴に近医を受診し,胸部大動脈瘤を認めたため当院を受診した.精査の結果,胸部大動脈瘤,大動脈弁閉鎖不全症,左心室瘤を認めていたためfrozen elephant trunk法によるTotal Arch Replacement(TAR)(右腋窩動脈バイパスとコイル塞栓術を併用),Aortic Valve Replacement(AVR),乳頭筋近接術,SAVE手術を行った.術後経過は良好で術後25日目に転院となった.Kommerell憩室は鎖骨下動脈起始異常を伴い,開胸手術による鎖骨下動脈再建は難度が高いとされている.近年ではThoracic Endovascular Aortic Repair(TEVAR)による瘤閉鎖も増えつつあるがエンドリークや大動脈食道瘻の合併症等もあり,その適応は慎重に決定する必要がある.今回,鎖骨下動脈再建の工夫とコイル塞栓術の併用により術後合併症を予防しつつ安全な手術を行うことができたため報告する.

  • 河合 憲一, 石田 成吏洋, 中村 康人, 熊田 佳孝
    2023 年52 巻3 号 p. 172-175
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    感染性胸部大動脈瘤は稀な疾患である.内科的治療から手術施行のタイミング,手術術式の選択についてはいまだ標準的治療法が確立されておらず,手術治療を行っても感染のコントロールがつかず致命的な病態を呈することも多い.今回われわれは感染性胸部仮性動脈瘤に対して人工材料を使用しないことを目的とし,自己浅大腿動脈を使用して上行大動脈再建を行い良好な経過を得た1例を経験した.症例は78歳の男性でStaphylococcus aureusによる菌血症,感染性胸部仮性動脈瘤を呈していた.これに対して12cmの自己浅大腿動脈を帯状に切開しロール状にtube graftとして形成し上行大動脈置換術と冠動脈バイパス術を施行した.患者は感染の再燃なく経過し,大動脈再建部の異常も認めず経過良好にて退院した.

  • 音琴 真也, 大塚 裕之, 姉川 朋行, 財満 康之, 古野 哲慎, 新谷 悠介, 中村 英司, 庄嶋 賢弘, 髙瀬 谷徹, 田山 栄基
    2023 年52 巻3 号 p. 176-180
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は71歳の男性.切除不能食道癌に対して化学放射線療法(chemoradiotherapy: CRTx)施行後,経過観察中に突然の吐血を認めた.造影CTにて,下行大動脈から食道への造影剤の漏出を認め,大動脈食道瘻(aortoesophageal fistula: AEF)と診断し,緊急胸部大動脈ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair: TEVAR)を予定したが,手術準備中に大量吐血し心肺停止となった.心肺蘇生開始後,経鼻的にSengstaken-Blakemore tube(SB-tube)を挿入し,出血のコントロールを行い,TEVARを施行して救命した.術後胃瘻造設は必要となったが合併症なく32日目に転院となった.しかし癌の進行とともに全身状態も増悪し,術後103日目に死亡した.一般的に切除不能食道癌に対するCRTxで,食道穿孔・穿通の発症リスクは10~20%と報告されており,そのなかでもAEFは致死的な合併症である.近年では長期予後に関して課題はあるものの,TEVARによる救命症例が報告されており,本症例は迅速な対応でSB-tube挿入,TEVARを施行し自宅退院後,約3カ月の延命が可能であった.

  • 中川 敬也, 松江 一, 末廣 泰男, 上村 尚, 佐藤 礼佳, 佐藤 尚司
    2023 年52 巻3 号 p. 181-184
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    78歳,女性.他院で心筋梗塞治療中の際,CTで右側大動脈弓を伴うKommerell憩室(径32 mm)を認め手術目的に当院紹介となった.飲み込みにくさなどの症状があり,Kommerell憩室による食道の圧排を認め,瘤化あるいは今後の破裂の危険性を考慮し手術適応と判断した.手術は,低肺機能であり,frailtyもclinical frailty scale 6と高いため2-debranching TEVAR(右腋窩動脈-右総頸動脈バイパス,左腋窩動脈-左総頸動脈バイパス,ステントグラフト内挿術,左鎖骨下動脈コイル塞栓術)を行った.術後経過は良好で,術後21日目に退院となった.食道通過障害による症状は徐々に改善した.術後2年で大動脈関連イベントは認めなかった.

  • 田中 仁, 那須 通寛, 井内 幹人
    2023 年52 巻3 号 p. 185-188
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は63歳男性,突然の胸部圧迫感,四肢冷感を主訴として救急搬送された.既往歴として肺非定型抗酸菌症のため11年間の3剤併用療法(クリンダマイシン,リファンピシン,エタンブトール)を行っている.造影CTで左バルサルバ洞は5.8cmに拡大しており,経胸壁心エコーでは高度の大動脈弁逆流,心タンポナーデにより右心房・右心室が圧迫されていた.検査中に血行動態が不安定となり気管内挿管を行い,カテコラミン投与下に手術場へ緊急搬送した.右大腿動静脈バイパス下に胸骨正中切開し,心嚢を切開したところ心嚢内は暗赤色血液で充満していた.心停止下に上行大動脈を切開したところ左バルサルバ洞全体が大きく拡大しており,正常組織を認めず,瘤壁は肺動脈∙左心房と固く癒着していた.左前下行枝・左回旋枝は個別に直接バルサルバ洞より起始しており,左主幹部は動脈瘤壁の一部となっているように考えられた.術後もリファンピシンを服用しなければならずワーファリンの作用を減じる可能性が高い.確実な逆流の制御が必要であり救命的措置手術であったため,自己弁温存手術よりは生体弁を用いたBentall手術を基本とすることにした.冠動脈再建は右冠動脈にはCarrel patch法を用い,左冠動脈は左前下行枝,回旋枝にそれぞれ大伏在静脈を用いたバイパス術を行うこととした.末消側吻合はできるかぎり冠動脈の中枢側本幹にて行い,中枢側吻合部は人工血管に行った.出血制御のため2日間のdelayed sternal closureとした.心機能に問題なく術後33日目に退院し,5年目の現在外来にて3剤併用療法を継続しており経過観察中である.

症例報告[末梢血管]
  • 鈴木 脩平, 平原 浩幸, 菅原 正明
    2023 年52 巻3 号 p. 189-192
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は15歳女児,全前脳胞症,重症心身障害児であり,4年前に気管切開施行後,在宅管理されていた.気管内吸引後に突然多量の出血を認めたため救急要請され当院へ搬送,造影CTで気管腕頭動脈瘻と診断された.呼吸循環動態が不安定だったため,小口径ステントグラフトを腕頭動脈に留置し,術後33日目に退院した.その3カ月後,気管カニューレチューブから出血を認め救急要請され当院へ搬送.病院到着時は自然止血されていたが,入院後も複数回出血を認めたため,腕頭動脈離断術を行い,術後20日目に退院した.気管腕頭動脈瘻は,気管切開後に生じる合併症で,発症率は0.3%程度と稀ではあるが,治療しなかった場合の死亡率はほぼ100%と予後不良な合併症である.気管腕頭動脈瘻に対して小口径ステントグラフトを留置することは一時的な止血として有用であると考えられた.

  • 大崎 隼, 力武 一久, 三保 貴裕, 山元 博文
    2023 年52 巻3 号 p. 193-196
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は17歳男性.MCT-8欠損症による脳性麻痺,重度精神運動発達障害があり,10歳時に気管切開術を施行されていた.気管切開孔から大量出血を来たし,前医へ救急搬送された.造影CTで気管腕頭動脈瘻と診断し,緊急で腕頭動脈へのカバードステント留置にて止血した.1カ月後に再出血を認め,再度カバードステント留置にて止血した.再出血や感染のリスクがあるため,根治的手術目的に当科へ紹介となった.手術は左第3肋間レベルL字型胸骨部分切開にて縦隔内へアプローチし,腕頭動脈離断術を施行した.新規の神経学的後遺症や縦隔洞炎を認めず,術後25日目に転院した.術後2年10カ月を経過して再出血や感染を認めていない.気管腕頭動脈瘻は再出血や感染,神経学的後遺症を予防するための治療戦略を立て,可及的早期の外科的治療に踏み切ることが重要である.

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U-40企画コラム 第53回日本心臓血管外科学会学術総会
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