日本心臓血管外科学会雑誌
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第53回日本心臓血管外科学会学術総会 卒後教育セミナー
胸部大動脈:慢性B型解離性大動脈瘤の治療戦略
内田 徹郎
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2023 年 52 巻 6 号 p. xv-xxv

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抄録

Stanford B型大動脈解離に対する治療体系は近年大きく変化してきた.従来,急性B型解離に対する治療は保存的な降圧安静療法が主体であったが,合併症を有する急性B型解離には胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)が第一選択となり,合併症を認めない症例に対しても慢性期の解離性大動脈瘤化を防止する目的にpre-emptive TEVARが考慮される.慢性B型解離性大動脈瘤は広範囲病変のため,胸腹部大動脈全体を治療対象にする必要に迫られる.慢性B型解離性大動脈瘤は,手術侵襲と術後脊髄障害が大きな問題であり,手術戦略はopen surgery,TEVAR,ハイブリッド手術,さらに一期的手術から段階的分割手術まで,多くの選択肢がある.一期的なopen surgeryは 広範囲の大動脈置換,腹部分枝と肋間/腰動脈の再建を要する侵襲の大きい治療法だが,最近では手術成績が向上し,再治療介入率も低い.手術侵襲と脊髄障害リスクを分散する目的に段階的open surgeryも行われている.開窓型または分枝付きステントグラフトを用いた血管内治療の良好な早期成績が報告されているが,わが国では保険承認された市販デバイスがない.またopen surgeryとTEVARを組み合わせたさまざまなタイプのハイブリッド治療が行われている.低侵襲治療であるTEVARやハイブリッド手術の早期成績はともに良好だが,術後の再治療介入率はopen surgeryに比較して高い.今後,血管内治療は保険承認デバイスを使用する一般的治療として普及することが期待される.また再手術や合併症を起こしたTEVAR症例へのbail outとして必要なopen surgeryも増加すると考えられる.患者にとって最良の治療法をバイアスなく選択するため,大動脈外科医はさまざまな治療戦略および治療手技に習熟する必要がある.

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