日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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52 巻, 6 号
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巻頭言
原著
  • 柿本 将秀, 笹山 幸治, 國友 祐希, 西村 善幸
    2023 年 52 巻 6 号 p. 381-386
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    [目的]心筋保護法において,心筋温度の管理は非常に重要である.心筋保護の効果判定として,非侵襲なサーモグラフィを使用して,心筋保護液の注入が正しく行われているかを確認すると同時に,当施設における心筋保護法の妥当性について検討した.[方法]2020年5月から2022年6月の心停止を伴う体外循環症例52例のうち,血液心筋保護であるMicroplegiaにて順行性心筋保護で心停止を得た10例を対象とした.心筋保護液の注入温は20℃とし順行性にて回路内圧300 mmHg未満,流量250~350 ml/分を維持した.心臓から80 cm離した位置より,サーモグラフィを用いて,心臓前面の心筋温を測定した.[結果]心筋保護開始前の心臓表面温度は32.5±1.0℃で,注入を開始してから,心停止を得たときの心臓表面温度は,27.4±1.3℃であった.すべての症例で,心停止時の心筋表面温度は視覚的に不均一であった.さらに注入を継続し,視覚的均一に最低表面温度に到達するまでの時間は平均342±23秒であった.心筋保護終了時の心臓表面温度は平均22.4±1.3℃であった.心筋保護液の注入を開始した際,心筋表面は,可視にて心筋表面は,脂肪より筋肉が速く冷却され,大動脈>心尖部よりの心筋>心基部の順に冷却された.術後経過は,EF・CKMB・カテコラミン使用量・抜管時間・術後入院日数・outcomeに関して,いずれの症例もおおむね良好であった.[結語]心筋保護液を注入する際,均一に心筋温を冷却するには,360秒程度の時間が必要であることが明らかになった.さらに,心基部の冷却を確認することで,全体が冷却されていると推察することが示唆される.不十分な心筋保護によるトラブルを回避するため,非侵襲で簡易なサーモグラフィを使用して心筋温を測定することで,心筋保護の効果判定の補助になることが示唆され,さらなる心筋保護の安全性を確立させることが期待できる.

症例報告 [先天性疾患]
  • 古川 夕里香, 橘 剛
    2023 年 52 巻 6 号 p. 387-391
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    BCOR遺伝子異常肉腫はかつてEwing様肉腫として扱われていた一群で,2020年以降骨軟部組織発生未分化小円形細胞肉腫に分類される予後不良な悪性腫瘍である.きわめて稀であり一定の治療法も確立しておらず外科治療に関する報告は少ない.なかでも心内浸潤した症例に対しての治療報告はいまだない.症例は14歳女児.左上腕痛を主訴に受診した.CT検査で左腋窩と左胸腔内に腫瘍を認め,それぞれ生検の後BCOR遺伝子異常肉腫と診断した.化学療法を予定していたが,心臓超音波検査で左心房内浸潤が明らかになり,塞栓症や僧帽弁への嵌頓による頓死リスクが高いため外科的切除の方針となった.腫瘍は左上肺静脈から直接浸潤し左房内へ進展していた.右肺転移が疑われており左肺を温存しつつ腫瘍を一塊で切除しようと考えたが,腫瘍が下葉気管支近傍へ浸潤しており,分割せずに摘出することは困難であった.心外への播種も懸念し,血管内で可能なかぎり腫瘍を切除した.残存腫瘍はあるが術後速やかに化学療法を開始し,腫瘍は縮小,今後腫瘍の全摘出を予定している.予後不良かつ希少なBCOR遺伝子異常肉腫の心内浸潤例に対し良好な経過を辿った1例を経験したため報告した.

症例報告 [成人心臓]
  • 長濱 真以子, 茂木 健司, 櫻井 学, 山元 隆史, 高原 善治
    2023 年 52 巻 6 号 p. 392-395
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    47歳男性.重症薬疹後の発熱精査で僧帽弁閉鎖不全症を認め,薬疹発症8カ月後に僧帽弁置換術を施行した.術後5日目に胸骨正中切開創が哆開し滲出液が流出した.細菌性縦隔洞炎と診断し,胸骨開放洗浄したが,前縦隔内の感染所見は乏しく滲出液の細菌培養検査は陰性であった.一方で,正中創周囲に小膿疱を伴い皮下脂肪織は融解していた.皮膚科医により,壊疽性膿皮症が疑われ,術後8日目より大量ステロイド療法を開始した.胸骨は開放したまま局所陰圧閉鎖療法を行った.炎症反応は改善し,膿疱の再燃なく,ステロイド減量できた.皮膚の壊死組織を切除し,術後19日目に胸骨正中創は縫合閉鎖し,術後96日目に自宅退院した.壊疽性膿皮症は手術を契機として発症することもあり,周術期に大量ステロイド療法を行うか否か,迅速な判断を迫られる疾患である.外科医としては鑑別疾患の1つとして知っておくべきと考え報告する.

  • 桑内 慎太郎, 細野 光治, 植月 友彦, 大野 雅人, 坂下 英樹, 岡田 隆之, 善甫 宣哉, 湊 直樹, 川副 浩平
    2023 年 52 巻 6 号 p. 396-400
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    症例は89歳,男性.88歳時に他院で器質性僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対しMitraClipによる経皮的僧帽弁接合不全修復術を施行されたが,中等度以上のMRが残存した.以後,徐々に腎機能低下と心不全が増悪し手術目的で紹介となった.大動脈弁狭窄症も併存したので,僧帽弁形成術と大動脈弁置換術を行った.術後経過は良好で,腎機能も改善し,術後14日目に前医へ転院となった.器質性MRにMitraClipを行う際には開心術の耐術能と僧帽弁の解剖学的妥当性とを慎重に検討して治療方針を決定するべきである.また中等度以上の逆流が残存した場合の対応もあらかじめ計画しておくべきである.

  • 中村 雄一, 山崎 学, 阿部 恒平, 吉野 邦彦, 玉木 理仁, 三隅 寛恭
    2023 年 52 巻 6 号 p. 401-405
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    症例は83歳女性(BSA 1.36 m2).8年前に重症大動脈弁狭窄症,重症僧帽弁閉鎖不全症,中等症三尖弁閉鎖不全症,心房細動に対して大動脈弁置換術(Magna ease 19 mm),僧帽弁置換術(Epic mitral 25 mm),三尖弁輪形成術(De Vega technique),肺静脈隔離術を他院で施行.来院6カ月前よりの労作時息切れ,呼吸苦等の心不全症状を来し当院紹介.精査にて弁尖の穿孔による僧帽弁閉鎖不全症および人工弁機能不全による僧帽弁狭窄症(平均圧較差7.8 mmHg)による肺高血圧症(安静時平均肺動脈圧 49 mmHg)の診断で,Manouguian法による弁輪拡大と大動脈弁再置換術(Inspiris 23 mm)および僧帽弁再置換術(Epic mitral 29 mm)を施行し肺高血圧症の改善を得た.

  • 嶋田 将之, 山下 慶之, 梅末 正芳
    2023 年 52 巻 6 号 p. 406-411
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    三尖弁は非対称的な3次元構造であり,posteroseptal portionが最も心尖部寄りにあり,anteroseptalportionが最も心尖部から遠くにある.完全内臓逆位では心腔内構造は正常解剖心の鏡像となるが,posteroseptal portionが最も低い位置に,anteroseptal portionが最も高い位置にあることは変わらない.そのため完全内臓逆位の症例における三尖弁形成術において,通常使用される3次元構造のrigid ringを裏返して使用するとposteroseptal portionが高い位置にanteroseptal portionが低い位置に誘導され,弁尖のcoaptationが不良になる恐れがある.今回,右胸心,完全内臓逆位における三尖弁閉鎖不全症,僧帽弁閉鎖不全症,慢性心房細動に対してflexible bandを用いた三尖弁輪縫縮術,僧帽弁形成術,左房縫縮術,左心耳閉鎖術を施行したので文献的考察を加えて報告する.

  • 菅藤 禎三, 恒吉 裕史, 瀬戸﨑 修司, 片山 秀幸, 秋本 剛秀, 木村 崇暢, 下村 俊太郎, 和田 拓己, 竹内 彬, 中村 剛
    2023 年 52 巻 6 号 p. 412-416
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    子宮頸癌からの心臓転移の症例は稀である.左鎖骨上リンパ節転移のため放射線治療を受けていた子宮頸癌の54歳女性の症例を報告する.患者は息切れを主訴に来院した.経胸壁心エコーで右室内に大きな腫瘤を認め,巨大腫瘤陥頓による突然死を防ぐため,準緊急手術を行った.冠動脈の後下行枝と左前下行枝に平行に右室を切開し,心内腫瘤を切除した.切除により,右室流出路閉塞や周術期の肺塞栓を予防し,死に至る可能性を回避した.心内腫瘤は子宮頸部扁平上皮癌であると診断し,退院後化学療法を施行した.術後3カ月目に行った心エコー検査で心臓転移の再発を認め,5カ月後に患者は死亡した.右室への心臓転移は,肺塞栓として現れることがある.稀ではあるが,子宮頸癌の心臓への転移のほとんどは,患者の予後がきわめて不良である.

  • 榊原 聡, 山内 孝, 勝谷 礼子
    2023 年 52 巻 6 号 p. 417-421
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    症例は58歳男性.2カ月ほど前より動悸,労作時呼吸困難が出現し近医受診.精査の結果心不全を疑われたため,精査加療目的に当院紹介受診され,僧帽弁閉鎖不全症,大動脈弁閉鎖不全症の診断となった.心電図非同期の術前胸部CTにて冠静脈洞開口部が狭小であり,同期CTにて精査すると冠静脈は通常の右房開口部で4.1 mm,また右房に2カ所(2.0 mm,2.3 mm)と右室に1カ所(1.5 mm)開口している形であり,通常の逆行性心筋保護は困難であると判断.本症例に対し,順行性心筋保護のみで僧帽弁形成術,大動脈弁置換術を施行し,大動脈遮断解除後体外循環離脱も容易であった.僧帽弁形成術の成否の術中判断については,大動脈基部を用手圧迫することで水負荷試験を行った.安全な開心術中の心筋保護投与のために,先天性心奇形を合併しない成人心臓疾患ではきわめて稀な形態異常であるが,狭小化冠静脈洞開口部は留意しておく必要があると思われた.

  • 齋藤 大樹, 迫田 直也, 田林 東, 小泉 淳一, 大澤 暁, 金 一
    2023 年 52 巻 6 号 p. 422-426
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    巨大冠動脈瘤は比較的稀な疾患であり,その原因として,川崎病,動脈硬化,先天性,外傷などが考えられている.冠動脈肺動脈瘻合併はしばしば認められるが,その治療方法に関してはいまだ明確な指針はない.今回,冠動脈肺動脈瘻を伴う巨大冠動脈瘤に対して,瘻孔切除・冠動脈瘤切除および冠動脈バイパス術を施行した1例を経験した.症例は66歳の女性.2022年の検診にて胸部レントゲンで異常陰影を指摘され,当院を紹介された.当院にて施行した冠動脈CT検査にて最大径45 mmを有する巨大冠動脈瘤を複数個認めた.また,左右冠動脈-肺動脈瘻も明らかとなった.冠動脈-肺動脈瘻を合併する巨大冠動脈に対し,冠動脈瘤切除および冠動脈バイパス術を施行した1例を経験した.文献的考察を踏まえ報告する.

  • 判治 永律香, 川崎 宗泰, 片柳 智之, 德弘 圭一, 藤井 毅郎
    2023 年 52 巻 6 号 p. 427-430
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    症例は48歳男性で,近医にて心不全の加療中に心臓超音波検査で両心室に血栓を認めた.内科的治療で心不全は軽快したが,血栓は抗凝固療法で消失しなかったため,精査・加療目的に当院へ紹介となった.冠動脈造影検査を施行したところ,#2-3 50%,#5 50%,#6 100%,#11 75%狭窄であった.心臓超音波検査では左室駆出率31%,びまん性の壁運動低下を認め,陳旧性心筋梗塞の所見であった.左心室内血栓は心尖部に付着して浮遊し遊離の可能性があったため,速やかな外科的治療介入が必要と判断し,血栓除去術と冠動脈ハイパス術を施行した.右心室内血栓は右房切開で経三尖弁的に,血栓の取り残しがないように硬性鏡を使用して摘出した.左心室内血栓は右側左房切開で経僧帽弁的に同様に摘出した.周術期塞栓合併症はなく,術後1年経過しているが直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を内服継続し血栓の再発は認めず,経過は良好である.

  • 古山 和憲, 西田 聡, 鷹合 真太郎
    2023 年 52 巻 6 号 p. 431-433
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    症例は35歳,男性.抗リン脂質抗体陽性の全身性エリテマトーデスにて当院内科へ通院していた.心雑音の精査のため,経胸壁心臓超音波検査を施行したところ,右室流出路に石灰化を伴う径30 mm大の腫瘤性病変を指摘された.手術は上部胸骨部分切開で行った.体外循環確立後,心拍動下に肺動脈幹を縦切開し,経肺動脈弁的に右心室を観察したところ,肺動脈弁下に高度に石灰化した腫瘤を認めた.腫瘤の剥離を行い,短時間の心停止として腫瘤を一塊に切除した.術後病理所見はcalcified amorphous tumorであった.術後12日目に独歩退院し,現在術後9カ月で再発を認めていない.

症例報告 [大血管]
  • 有谷 拓実, 大倉 一宏, 新谷 恒弘, 夏目 佳代子, 長谷川 悠人, 菊池 直哉
    2023 年 52 巻 6 号 p. 434-438
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性.6年前に胸腹部大動脈瘤の診断となり,徐々に瘤径拡大,背部痛等の自覚症状を認めたため手術適応となった.Shaggy aortaを伴っていたが,肺機能不全により開胸手術は耐術困難であり胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR; thoracic endovascular aortic repair)の方針とした.Landing zone確保のために頸部および腹部のdebranchが必要であり,またアクセス血管は細くルート作製が必要であったため,まず腹部4分枝debranch+アクセスルート作成を施行し,2期目に2-debranch TEVARを施行した.TEVARの際にはShaggy aortaによる塞栓性合併症の予防として,脳梗塞予防にFunctional brainisolationを,腹部分枝・下肢塞栓予防にSheathによる物理的なprotectおよび塞栓源のドレナージ,そしてBalloon occlusionを併用した.術後塞栓性合併症は認めず良好な経過を辿った.Shaggy aortaはJapan SCOREやEuro SCOREでは評価されないが,周術期脳梗塞のリスク因子であり,各症例に応じた塞栓症予防の工夫が必要である.

症例報告 [末梢血管]
  • 土田 憲, 小ヶ口 恭介
    2023 年 52 巻 6 号 p. 439-443
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    症例は55 歳,女性.腎変形の精査目的の造影CTで,腹腔動脈(celiac artery: CA)と上腸間膜動脈(superior mesenteric artery: SMA)の起始部近傍の高度狭窄,下腸間膜動脈(inferior mesenteric artery: IMA)の拡張,嚢状の左結腸動脈瘤(left colic artery aneurysm: LCAA),脾弯曲部のアーケードの辺縁動脈瘤が診断された.LCAAへのコイル塞栓を施行し,内臓動脈への血流改善のために2期的にSMAへのバイパス術を施行したところ,IMAの拡張が改善した1例を経験したので報告する.

  • 松岡 健太郎, 髙島 範之, 神谷 賢一, 榎本 匡秀, 鉢呂 康平, 脇坂 穂高, 角 宏明, 島田 ゆうじ, 鈴木 友彰
    2023 年 52 巻 6 号 p. 444-448
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    症例は41歳男性.左第5指の疼痛と冷感を認め,前医で左鎖骨下動脈狭窄症と診断された.金属アレルギーの既往があり,パッチテストでマンガンとクロムに陽性反応を認めた.左鎖骨下動脈にニチノールステントを留置されたが,このとき1本は留置時に脱落したため,腹部大動脈まで誘導されそこに留置された.留置10日後から左肩の疼痛と発熱を認め,2週間症状が継続したため前医を受診した.造影CTでステントを留置した左鎖骨下動脈の瘤形成と脂肪織濃度上昇を認め,腹部大動脈のステント周囲にも脂肪織濃度上昇を認めた.左鎖骨下動脈仮性瘤と診断され,当科紹介となった.手術は胸骨正中切開・人工心肺補助下で左鎖骨下動脈瘤切除術・大動脈-大伏在静脈-左鎖骨下動脈バイパス術・左鎖骨下動脈および腹部大動脈異物除去術を施行した.胸骨閉鎖にはチタン製のワイヤーとプレートを使用した.術後12日目に撮影した造影CTで腹部大動脈に仮性動脈瘤を認め,術後14日目に腹部大動脈人工血管置換術を施行した.その後の経過は良好であり,初回手術の術後27日目に自宅退院した.感染性左鎖骨下動脈瘤は稀な疾患であり,金属アレルギーを合併する本症例はきわめて稀と考えられたため,文献的考察もふまえてここに報告する.

  • 落合 智徳, 正木 直樹, 帯刀 英樹, 崔 禎浩
    2023 年 52 巻 6 号 p. 449-451
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    フォンタン手術後の血栓予防方法についてはいまだ議論の余地がある段階である.またその多くは体循環の血栓塞栓症に関する予防であり,心外導管に対する血栓予防法に関してはまとまった見解がない.今回心外導管型フォンタン手術後,肝障害の進行を認めた心外導管内血栓性狭窄症例を経験したので報告する.症例は11歳の女児で3歳時に心外導管型フォンタン手術を施行した.術後は抗血栓療法としてアスピリン内服が行われていた.11歳時に行った心臓カテーテル検査で導管内を占拠する血栓を認め,血液検査でPT活性低下,CT検査で多量の腹水を認めた.心外導管置換術を施行し,腹水消失と血小板回復を認めた.導管内血栓性狭窄はフォンタン術後の稀な合併症ではあるが,導管内血栓塞栓リスクをつねに念頭に入れておく必要がある.

各分野の進捗状況(2022年)
国際学会参加記
第53回日本心臓血管外科学会学術総会 卒後教育セミナー
  • -米国ガイドライン再考-
    夜久 均
    2023 年 52 巻 6 号 p. i-iv
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    2021年冠血行再建に関する米国ガイドラインが報告された.左主幹部(LMT)病変におけるPCIとCABGのアウトカムの比較においては,EXCEL試験,NOBLE試験が主たるエビデンスとして引用されているが,特にEXCEL試験の周術期心筋梗塞(MI)の定義がプライマリーエンドポイントに影響しており,その設定のあり方,内容において疑義があがった.EXCEL試験においてはMIの定義としてProtocol Definitionとして米国心臓血管造影検査インターベンション学会(SCAI)の定義が用いられており,これは一般に認められているUniversal Definitionとは異なり,CABGでの周術期MIの頻度が高くなる傾向にある.NOBLE試験ではプライマリーアウトカムのMIの定義はnon-procedural MIとなっており,CABGにおける頻度が低くなる.また,2021米国ガイドラインは,安定型多枝病変の冠血行再建に対しては,ISCHEMIA試験の影響を強く受け,PCI,CABGともにIIbに引き下げられた.これに対しては日本も含めて世界の特に外科系学会からの疑義が強くあがっており,米国ガイドラインのその章に関してはその推奨度を認めない旨が各学会から論文で報告されている.

  • 坂口 太一
    2023 年 52 巻 6 号 p. v-viii
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    肋間開胸による低侵襲心臓手術 (MICS: Minimally InvasiveCardiac Surgery) が近年増加している.2018~2019年のJCVSDのデータによれば,僧帽弁手術の42.6%がMICSで実施されていた.MICSは整容性に優れるだけでなく,胸骨を切開しないため,退院後の運動制限がなく社会復帰が早いなど,多くの利点があるが,MICS特有の合併症など注意すべき点も多い.限られた術野内での手術操作に関する問題と,大腿動静脈アクセスによる体外循環に関連する問題があり,ラーニングカーブにおいて合併症が多く発生する傾向がある.MICSを導入する際には,これらのピットフォールを十分に理解し,予防することが何よりも重要である.

  • 福嶌 五月, 田所 直樹
    2023 年 52 巻 6 号 p. ix-xiv
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    Mechanical Circulatory Support (MCS) は心原性ショックに対する救命手段として使用される.使用実績の長い大動脈内バルーンパンピング(IABP)や経皮的心肺補助(VA-ECMO)に加えて,近年導入されたポンプカテーテル(Impella®)が主要なMCSデバイスである.これらを組み合わせることでショック患者の,1)左心・右心の減負荷,2)全身灌流による臓器への酸素供給,3)適正な肺循環,を迅速に達成し,心原性ショックの原因の検索と治療を行うことでMCSを離脱することが治療の目標となる.本稿では,各病態に応じたMCSの選択から,装着手技,MCSの離脱に至るまでの管理について解説する.

  • 内田 徹郎
    2023 年 52 巻 6 号 p. xv-xxv
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    Stanford B型大動脈解離に対する治療体系は近年大きく変化してきた.従来,急性B型解離に対する治療は保存的な降圧安静療法が主体であったが,合併症を有する急性B型解離には胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)が第一選択となり,合併症を認めない症例に対しても慢性期の解離性大動脈瘤化を防止する目的にpre-emptive TEVARが考慮される.慢性B型解離性大動脈瘤は広範囲病変のため,胸腹部大動脈全体を治療対象にする必要に迫られる.慢性B型解離性大動脈瘤は,手術侵襲と術後脊髄障害が大きな問題であり,手術戦略はopen surgery,TEVAR,ハイブリッド手術,さらに一期的手術から段階的分割手術まで,多くの選択肢がある.一期的なopen surgeryは 広範囲の大動脈置換,腹部分枝と肋間/腰動脈の再建を要する侵襲の大きい治療法だが,最近では手術成績が向上し,再治療介入率も低い.手術侵襲と脊髄障害リスクを分散する目的に段階的open surgeryも行われている.開窓型または分枝付きステントグラフトを用いた血管内治療の良好な早期成績が報告されているが,わが国では保険承認された市販デバイスがない.またopen surgeryとTEVARを組み合わせたさまざまなタイプのハイブリッド治療が行われている.低侵襲治療であるTEVARやハイブリッド手術の早期成績はともに良好だが,術後の再治療介入率はopen surgeryに比較して高い.今後,血管内治療は保険承認デバイスを使用する一般的治療として普及することが期待される.また再手術や合併症を起こしたTEVAR症例へのbail outとして必要なopen surgeryも増加すると考えられる.患者にとって最良の治療法をバイアスなく選択するため,大動脈外科医はさまざまな治療戦略および治療手技に習熟する必要がある.

  • 清家 愛幹
    2023 年 52 巻 6 号 p. xxvi-xxx
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー
  • 阿部 知伸
    2023 年 52 巻 6 号 p. xxxi-xxxvi
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    外科的大動脈弁置換術(surgical aortic valve replacement; SAVR)は,経カテーテル的人工弁留置術(transcatheter aortic valve implantation; TAVI)の登場もあり転換期を迎えている.2020年代になり日本,欧米の主要弁膜症ガイドラインが改訂され新たな推奨が提示された.またこれ以前からSAVR時の人工弁の選択について診療の現場は変わりつつあり,若年者にも生体弁を用いる傾向は明らかである.しかしながら実診療の変化は科学的エビデンスに先行してしまっている部分もある.現時点で科学的に何が既知であって何が未知であるか理解していることはEvidence Based Practiceの実践と今後の臨床研究の方向性を見定めるうえで重要である.

  • 柚木 継二, 佐伯 宗弘, 井上 知也
    2023 年 52 巻 6 号 p. xxxvii-xl
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    再開胸での大動脈瘤手術は初回手術に比べ,再開胸自体に術前からの準備・対策が必要であり,その上さらに手術時間,出血量も多く,術後感染症などの合併症も心配される.やはり手技的にも初回手術以上に経験と,熟達した技術が不可欠であるが,術前からの対策を行うことでその不足分の安全性を高めることが期待される.

  • 和田 有子
    2023 年 52 巻 6 号 p. xli-l
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー
  • 保科 克行
    2023 年 52 巻 6 号 p. li-liv
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー
U-40 企画コラム
  • 西織 浩信, 伊藤 貴弘, 藤内 康平, 玉木 理仁, 亀田 柚妃花, 北方 悠太, 澁谷 泰介, 三木 隆生, 宮崎 豪, 森 佳織, 時 ...
    2023 年 52 巻 6 号 p. 6-U1-6-U6
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/12/09
    ジャーナル フリー

    ついに2022年度,新心臓血管外科専門医制度下に,一期生が心臓血管外科専門医試験を受験した.制度移行期であり,まだ新制度の変更点や実際のところについては詳しくない先生も多く,不安の声も多い.今回,実際に新専門医制度下に心臓血管外科専門医を受験した医師中心に座談会を行った.その結果主に,① 連動制度を用いて医師7年目に専門医が実際に取得できた,② 細かい症例登録要件はむしろ緩和され登録で困ることはなかった,③ 論文は律速となり得るので早めの準備が無難,④ Off the Job Trainingは自施設でも積極的に開催が必要,であることが分かった.細かいtipsを含め,新心臓血管外科専門医制度の申請・受験の実際についてまとめたので報告する.

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