2024 年 53 巻 5 号 p. 255-258
症例は,60歳代女性.胸痛のため前医を受診した.胸痛精査のため心電図検査を行ったところV3~V6 ST低下,aVR ST上昇,I,II,aVL,aVF 陰性T波を認め,血液検査でCK-MBおよびトロポニンIの上昇を認めた.造影CTではsinotubular junctionより遠位に解離の所見を認めなかった.急性心筋梗塞が疑われ冠動脈造影が実施された.冠動脈口にカテーテルを挿入できなかったため大動脈造影を行ったところ,バルサルバ洞内にflapを認め急性大動脈解離と診断された.当院へ搬送後,緊急手術(大動脈基部置換術)を施行した.術中所見:エントリーはバルサルバ洞内にほぼ全周にわたってらせん状に存在していた.内膜,弁尖が左室内腔へ落ち込み,左右冠動脈入口部も圧排されていた.そのため術前から大動脈弁閉鎖不全,心筋梗塞を合併したと考えられた.術後,経過は良好で,術後14日目に自宅退院となった.今回バルサルバ洞内に限局した急性大動脈解離により心筋梗塞と大動脈閉鎖不全を併発した症例に対し,大動脈基部置換術を行い良好に経過した.このような症例の救命のためには,たとえ造影CTで大動脈解離の所見が乏しくても,その可能性を念頭においた迅速な診断が重要であると考えられた.