2024 年 53 巻 5 号 p. 259-262
症例は突然右片麻痺を発症した63歳女性で,左中大脳動脈領域の基底核・前頭葉・頭頂葉の多発性脳梗塞と診断された.脳梗塞の原因と考えられる左房粘液腫が見つかり,その摘出手術の待機中に,脳梗塞再発予防の目的でヘパリンによる抗凝固療法を行ったところ,脳梗塞発症から8日目に運動性失語を発症した.正中偏位を伴うほどの,左側頭葉・前頭葉の広範な出血性脳梗塞と診断されたため,抗凝固療法は中止した.出血性脳梗塞から6週間の間隔を空けた上で左房粘液腫を摘出し,新たな脳神経学的合併症を起こすことなく,軽快退院した.左房粘液腫に広範な出血性脳梗塞を合併しても,待機中に脳梗塞再発の可能性はあるものの,十分な間隔を空ければ,安全な摘出手術が可能であると考えられる.また,脳梗塞後の手術待機中における脳梗塞再発予防の抗凝固療法は出血性脳梗塞合併の危険があるため避けて,早期手術を検討すべきである.