2024 年 53 巻 5 号 p. 270-273
症例は87歳女性.10年前に大動脈弁閉鎖不全症合併大動脈弁輪拡張症・上行弓部大動脈瘤に対して,機械弁を用いた基部置換術および上行弓部大動脈置換術を受けた.また5年前に胸部下行大動脈瘤に対して,胸部大動脈ステントグラフト内挿術を受けた.その後の経過は順調であったが,突然の胸背部痛と両下肢麻痺を認め,救急搬送された.造影CT検査では,胸部大動脈ステントグラフト遠位端から始まり両側大腿動脈まで連続する造影剤欠損を認め,胸部大動脈ステントグラフトから両側大腿動脈に至る大量血栓症と診断した.血栓の周囲が全周性に造影されていて,動脈壁とは全周にわたって接していないと考えられた.機械弁置換後でワーファリンを内服していたが,ヘパリンによる抗凝固療法を追加するも,急速に全身状態が悪化し,発症から6時間後に死亡した.胸部大動脈ステントグラフト内挿術後のステントグラフトから末梢に連続する血栓症はきわめて稀と考えられる.