2025 年 54 巻 3 号 p. 130-134
胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR: Thoracic endovascular aneurysm repair)のアクセスルートとしては総大腿動脈が一般的であるが,血管径や性状などから他のアクセスルートを用いるべき症例や,血管内治療を断念せざるを得ない症例も存在する.症例は70代,女性.X-5年 上行大動脈瘤・腹部大動脈石灰化狭窄に対し,部分弓部大動脈置換術および上行大動脈-両側外腸骨動脈バイパス術を施行した.X年,右下腹部でバイパスグラフトが感染したことを契機に,遠位弓部大動脈および下行大動脈それぞれに嚢状瘤が出現した.バイパスグラフト感染は抗菌薬投与で軽快したが,嚢状瘤は仮性瘤の可能性が否定できず,TEVARの方針とした.手術では心窩部正中を切開して腹膜前腔でバイパスグラフトを露出し,ここをアクセスとしてZone 3から第11胸椎レベルにかけて順行性にZenith Alpha(Cook Medical, Bloomington, IN, US)を2本留置した.術後5日目の造影CTではいずれの嚢状瘤にもtype Ia/Ibを疑うエンドリークを認めたが,術後4カ月の造影CTでは自然消失しており,いずれの嚢状瘤も消退していることが確認された.これまでにTEVARにおけるさまざまなアクセスルートが報告されてきたが,上行大動脈から下肢への非解剖学的バイパスグラフトをアクセスとして使用した報告は本症例が初めてと考えられる.