2026 年 55 巻 4 号 p. 185-189
Porcelain aortaおよびshaggy aortaを伴う弓部大動脈瘤では,胸部大動脈ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair; TEVAR)は,石灰化ランディングによるエンドリークと粥腫飛散に起因する脳梗塞の危険性から適応が著しく制限される.このような高リスク症例に対しては,大動脈操作を最小限とし,確実な脳保護を得られる開胸弓部置換が有効な選択肢となる.78歳,男性.胸背部痛で搬送され,造影CTで最大径58 mmの弓部大動脈瘤,穿通性動脈硬化性潰瘍(penetrating atherosclerotic ulcer; PAU)に伴う周囲血腫,高度石灰化とびまん性粥腫を認め,porcelain/shaggy aortaの所見であった.上行大動脈には基部近傍に約3 cmの非病変部をわずかに残すのみで,解剖学的条件と塞栓・エンドリークのリスクからTEVARは不適と判断した.右腋窩・左腋窩・左総頸動脈を露出し人工血管を吻合後心嚢内に導き,体外循環を確立した.体外循環開始後に左総頸動脈と左鎖骨下動脈の結紮を行って3分枝からの脳分離法(brain isolation technique)による順行性脳灌流を開始した.循環停止後に上行大動脈を離断し,術前に大腿動脈から上行大動脈へ留置しておいたガイドワイヤを用いて,プルスルー法にてFrozen Elephant Trunk(FET)を血液充満下にZone 0で展開した.つづいて2分枝人工血管により弓部を再建した.循環停止時間は59分,人工心肺時間は157分であった.術後5時間で抜管し,術後3日目にICUを退室,14日目に独歩退院した.術後CTでFETの位置は良好で,エンドリークや脳梗塞・腎障害などの塞栓性合併症は認めなかった.Porcelain aortaおよびshaggy aortaを呈しTEVAR不適と判断された弓部大動脈瘤切迫破裂例でも,事前の脳分離法とガイドワイヤ支援によるFET展開を組み合わせることで,大動脈内の粥腫を攪拌せずに安全な弓部再建が可能であった.