1992 年 21 巻 3 号 p. 233-237
内胸動脈 (ITA) グラフトによる冠動脈多枝バイパス手術を110例に行い, 手術・入院死亡率0.9%であった. 24~76歳, 平均54±9歳の男性102例, 女性8例で, 平均グラフト数は3.2±0.8本/患者であった. 両側内胸動脈 (BITA) 使用87例, sequential バイパス (SQ-ITA) 31例, 両者の併用8例であった. 遠隔期死亡は非心臓死の1例で5年目までの生存率は98%であった. この間PTCAを11例 (10%) に施行したが minor lesion に対する危険度の低いPTCAであり, 再手術例はなかった. グラフト開存率はBITAでは左右のITAで差はなく約97%, SQ-ITAは近, 遠位とも100%で術後の臨床所見の改善は良好であった. BITA使用で懸念される胸骨感染症はなく, これは閉胸前の十分な洗滌 (縦隔, 胸骨, 皮下組織) 操作が有効であったものと考えている. この合併症の予防は手術成績の向上にも大きく関係している. BITA症例ではRITA-LAD, LITA-LCXの組み合わせが多かったが, 本法ではRITAが大動脈前面を斜走するため, 正中切開よりの再手術ではグラフト損傷の危険がある. これを少しでも安全とするため, 最近施行しているEPTFE人工血管 (8mm径, 約8~10cm) によるITA被覆法を示した. 未だITAによる多枝バイパス例中に再手術が出現していないため, 本法の再手術時の真の有効性に関しては未知であるが再正中切開時の安全性は高めうると考える.