抄録
冠状動脈バイパス術を対象として, アプロチニンによる体外循環時の出血量節減効果について検討を行った. アプロチニン群 (A群) は34例にアプロチニン200万単位を人工心肺回路内に投与し, コントロール群 (C群) として31例を比較した. 術中, ACTはA群で体外循環開始後60分まで延長がみられたが, 血小板数では全経過を通じて両群に差はなかった. 術中出血量は, A群366±112mlに対してC群514±190ml, 術後ドレーン出血量は, A群354±138mlに対しC群570±226mlと有意 (p<0.05) にA群で少なかった. この結果, 総出血量でもA群で720±199ml, C群1,084±346mlと, アプロチニン使用により冠状動脈バイパス術時の出血は非使用に比べ34%減少させることができた. 周術期の心筋障害についての比較を行うと, 発生率に差はみられなかったが, 良好な止血効果に起因するグラフト開存性への影響など, 今後は合併症に関する検討を要すと思われた.