抄録
感染性大動脈瘤は, 動脈硬化性のものに比べ破裂・感染などのため予後不良とされている. 今回, 多発性感染性腹部大動脈瘤の1手術例を報告する. 症例は62歳女性. 先行する重症感染症の精査加療中に腎動脈下部の多発性大動脈瘤を指摘され, 感染性腹部大動脈瘤と診断された. 炎症性癒着が強固であったため, 瘤や周囲感染組織の除去はできなかったが, 瘤内腔を可及的に除去したのち in situ の人工血管置換術を施行した. 術後感染所見は正常化し再発の徴候はない. 自験例は血中細菌の血管壁への付着により生じたものと考えられ, 本疾患の発生機序を考察する上で貴重な症例であると思われた. 感染性腹部大動脈瘤の本邦報告例17例を検討し, 治療は瘤および周囲感染組織を可及的に除去した後の in situ の血行再建が第一選択であると考えた.