日本心臓血管外科学会雑誌
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虚血性心疾患を合併した腹部大動脈瘤症例の外科治療
井上 毅北村 惣一郎河内 寛治川田 哲嗣小林 修一多林 伸起坂口 秀仁吉川 義朗
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1996 年 25 巻 3 号 p. 165-169

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抄録

手術を行った腹部大動脈瘤 (AAA) 症例 (破裂例を除く) 143例 (男118例, 女25例, 平均68.5±6.9歳) における虚血性心疾患 (IHD) の合併とその対策に関して検討した. 術前危険因子として, 高血圧症96例 (76%), 糖尿病25例 (17%), 高脂血症53例 (37%), 喫煙歴118例 (83%) を認め, その Brickman index は824±660 (0~3,300) であったIHDの判定にはジピリダモール注負荷心筋シンチグラムおよび選択的冠状動脈造影検査を行い, シンチグラム陽性例および冠状動脈の50%以上狭窄によってIHD陽性と判定した. その結果, IHDの合併は62例 (43%) に認められた. IHD陽性群とIHD陰性群を比較した場合, IHD陰性群に比較してIHD陽性群では糖尿病 (29%vs9%; p=0.0031) および高脂血症 (51%vs26%; p=0.0029) の合併率が高かったが, 手術死亡率 (3%vs2%) に差はなかった. 手術は全例で人工血管置換術を行った. 冠状動脈造影検査で狭窄が50%以上の症例58例 (40%) 中, 狭窄度が50~75%の32例 (22%) に対しては術中・術後薬物 (ニトログリセリンやジルチアゼムなど) 療法のみで対応し, 狭窄度が75%以上の1枝疾患 (左冠状動脈主幹部を除く) 症例10例 (7%) に対しては, 術前PTCAを行ってからAAAの手術を行った. 狭窄度が75%以上で左冠状動脈主幹部および左前下行枝病変を含む2枝疾患以上の症例は冠状動脈バイパス術 (CABG) の適応とし, CABG先行後AAAに対して二期的手術を5例 (3%) に, CABG同時一期的手術を11例 (8%) に行った. なお切迫破裂例に対しては, 術前にIHD合併を認められた4例 (3%) を含め薬物投与のみで緊急手術を行った. このような対応にて術後IHDにより死亡した症例はなく, 心筋梗塞を発症した症例もなかった. CABG同時手術例11例中手術死亡例はなく, AAAおよびIHD共に重症例には推奨される方法と考える.

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