日本心臓血管外科学会雑誌
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25 巻, 3 号
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  • 阿部 正一, 軸屋 智昭, 野間 美緒, 中村 勝利, 佐藤 雅人, 朝倉 利久, 榊原 謙, 厚美 直孝, 寺田 康, 三井 利夫
    1996 年 25 巻 3 号 p. 147-151
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    人工弁置換術後の腹部大動脈瘤手術4例の周術期の抗凝固療法について検討した. 対象患者の年齢は53歳から77歳 (平均62歳), 4例ともに男性で機械弁を移植され, ワーファリンと抗血小板薬による抗凝固療法を受けていた. 術前に両剤を中止するとともにヘパリン200単位/kg/日を持続静脈内投与し, 活性化凝固時間を150秒にコントロールした. 術後は, ワーファリンの効果出現までヘパリン投与を継続した. 4例の平均手術時間 (314±91分), 平均術中出血量 (908±534ml) は, 同時期に行った腹部大動脈瘤待機手術7例と有意差はなかった. 胆嚢摘出術を同時に施行した1例に術後腹腔内出血のための再手術を要し, その後出血性脳梗塞を合併した. 術前から計画的な抗凝固療法を行うことにより人工弁置換術後の腹部大動脈瘤手術も安全に行うことができる. しかし, 腹腔内合併疾患が存在する場合は同時手術の術式選択には慎重を期すべきと考える.
  • 尾崎 直, 蔵田 英志, 近藤 治郎, 松本 昭彦
    1996 年 25 巻 3 号 p. 152-157
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    混合静脈血 (SvO2) を連続モニターできる肺動脈カテーテル (Oxymetry 93A-741-7.5F) を留置しSAT-2を用いてモニタリングすることにより心係数 (CI), 血中ヘモグロビン量 (Hb) のモニターの代用となりうるかどうか開心術21例について検討した. 術直後のHbとSvO2とはr=0.513 (p<0.05) の低い相関があった. SvO2と心機能の指標である肺動脈楔入圧, CIとは相関はなかった. Hbが10~13g/dlにおいてSvO2が60%未満の症例はCIが2.47l/min/m2と60%以上と比較して有意に低値(p<0.01) であった. Hbが10g/dl未満で心機能が正常 (2.5≤CI≤4.0l/min/m2) の症例ではSvO2が60%未満の症例においてはHbが7.40g/dlと60%以上の症例より有意に低値 (p<0.01) であった. 以上よりSvO2が60%以下のとき, 心機能の低下あるいは高度貧血があると思われた.
  • 中田 金一
    1996 年 25 巻 3 号 p. 158-164
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    左前下行枝分枝結紮法で作成した急性左心不全モデルに対して, 左心バイパスによる補助を拍動流と無拍動流で行い, 左冠状動脈血流量, 心内, 外膜組織血流量, 肝臓組織血流量, 腎皮質, 髄質組織血流量を測定し, 各臓器の血流量の変化を比較検討した. 左冠状動脈血流量, 心内, 外膜組織血流量は拍動流補助群, 無拍動流補助群の間に有意差を認めなかった. これに対して, 肝臓, 腎皮質, 髄質組織血流量は, 拍動流補助群が無拍動流補助群より有意な増加を示した. 以上の結果から, 心原性ショック後, 主要臓器に血流の不均等分布が起き, 多臓器不全を惹起しうる状態では, 重要臓器を保護する上で拍動流補助が有効であると考えられた.
  • 井上 毅, 北村 惣一郎, 河内 寛治, 川田 哲嗣, 小林 修一, 多林 伸起, 坂口 秀仁, 吉川 義朗
    1996 年 25 巻 3 号 p. 165-169
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    手術を行った腹部大動脈瘤 (AAA) 症例 (破裂例を除く) 143例 (男118例, 女25例, 平均68.5±6.9歳) における虚血性心疾患 (IHD) の合併とその対策に関して検討した. 術前危険因子として, 高血圧症96例 (76%), 糖尿病25例 (17%), 高脂血症53例 (37%), 喫煙歴118例 (83%) を認め, その Brickman index は824±660 (0~3,300) であったIHDの判定にはジピリダモール注負荷心筋シンチグラムおよび選択的冠状動脈造影検査を行い, シンチグラム陽性例および冠状動脈の50%以上狭窄によってIHD陽性と判定した. その結果, IHDの合併は62例 (43%) に認められた. IHD陽性群とIHD陰性群を比較した場合, IHD陰性群に比較してIHD陽性群では糖尿病 (29%vs9%; p=0.0031) および高脂血症 (51%vs26%; p=0.0029) の合併率が高かったが, 手術死亡率 (3%vs2%) に差はなかった. 手術は全例で人工血管置換術を行った. 冠状動脈造影検査で狭窄が50%以上の症例58例 (40%) 中, 狭窄度が50~75%の32例 (22%) に対しては術中・術後薬物 (ニトログリセリンやジルチアゼムなど) 療法のみで対応し, 狭窄度が75%以上の1枝疾患 (左冠状動脈主幹部を除く) 症例10例 (7%) に対しては, 術前PTCAを行ってからAAAの手術を行った. 狭窄度が75%以上で左冠状動脈主幹部および左前下行枝病変を含む2枝疾患以上の症例は冠状動脈バイパス術 (CABG) の適応とし, CABG先行後AAAに対して二期的手術を5例 (3%) に, CABG同時一期的手術を11例 (8%) に行った. なお切迫破裂例に対しては, 術前にIHD合併を認められた4例 (3%) を含め薬物投与のみで緊急手術を行った. このような対応にて術後IHDにより死亡した症例はなく, 心筋梗塞を発症した症例もなかった. CABG同時手術例11例中手術死亡例はなく, AAAおよびIHD共に重症例には推奨される方法と考える.
  • 肺静脈・左心耳吻合モデルによる実験研究
    東郷 孝男, 伊藤 智弘, 逢坂 研志, 村田 貞幸, 畑 正樹, 庄司 好己, 田林 晄一
    1996 年 25 巻 3 号 p. 170-174
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    雑種幼若犬を用いて肺静脈・左心耳吻合モデルを作成し, 吸収性縫合糸 (polydioxanone) と非吸収性縫合糸 (polypropylene) による, 呼合部狭窄の発生について検討した. 縫合糸の違いによる吻合部狭窄の発生頻度に有意の差はなく, また組織所見からも吸収性縫合糸が, 吻合部狭窄の原因とは考えられないと結論された.
  • 低温保存と凍結保存の比較検討
    華山 直二
    1996 年 25 巻 3 号 p. 175-180
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    新鮮同種血管の保存効果および移植後免疫反応について, TC199溶液を用いた4℃低温保存群 (以下低温保存群) および, 凍結保存群で比較検討したので報告する. 実験モデルは Wister-King ラットの胸部下行大動脈を摘出し低温保存群および凍結保存群とに分け, 保存期間は両群共1, 2, 3週間とした. 保存後の組織学的所見では, 低温保存群1週間および2週間では細胞の構築は正常に保たれているものの, 3週間では線維芽細胞の崩壊, 弾性線維の断裂を認めた. これに対し, 凍結保存群ではすべての保存期間で細胞の構築はよく保たれていた. 低温保存群1, 2, 3週間および凍結保存群3週間のグラフトを異系ラットの下行大動脈に移植し, 3週間後にグラフトを摘出し, 組織学的, 免疫学的に検討した. 低温保存群1週間では細胞の組織学的構築はよく保たれているものの2週間3週間では細胞融解および外膜よりの細胞浸潤が認められた. 凍結保存群では細胞の組織学的構築はよく保たれているものの内膜の肥厚を認めた. 免疫組織染色では, 低温保存群の内膜に補体C3の沈着, また凍結保存群の弾性線維にIgGの沈着をそれぞれに認めた. 以上より1)保存期間としては, 低温保存群では2週間未満, 凍結保存群では3週間以上の保存が可能であると思われた. 2)移植後の免疫反応は両群共に認められるが, 保存様式の相違により, 低温保存群では外膜よりの細胞浸潤が認められ, 凍結保存群では内膜の肥厚が著明であった.
  • 山中 一朗, 安藤 史隆, 岡本 文雄, 大谷 成裕, 小田 勝志, 笹橋 望, 曽我部 浩, 花田 智樹
    1996 年 25 巻 3 号 p. 181-184
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は6歳女児, 1歳5か月時, 心内膜床欠損症の根治術を受けた. 術後大動脈弁下狭窄が徐々に進行し, 術後4年半後の心カテーテル検査で, 大動脈-左室圧較差が97mmHgの discrete 型大動脈弁下狭窄と判明し再手術を施行し. 大動脈弁は三弁で正常. 経大動脈弁に左室流出路を検索すると弁下5mmのところに1/2から1/3周にわたって膜様隆起を認めた. これをメスにてくりぬくように切除した. 術後大動脈-左室圧較差は25mmHgと改善した. 心内膜床欠損症術後遠隔期の合併症として, 左室流出路狭窄は知られているが, 本邦での報告は未だ少なく, 発生機序, 術式, 術後再発など若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 本邦報告例の検討
    山中 一朗, 安藤 史隆, 岡本 文雄, 大谷 成裕, 笹橋 望, 曽我部 浩, 花田 智樹
    1996 年 25 巻 3 号 p. 185-188
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は78歳男性. 左大腿部の拍動性腫瘤および左大腿疼痛にて発症した. 造影CTにて左大腿部に最大径6.8cmの enhance された占拠性病変を認め, 大腿深動脈瘤と診断した. 左大腿部を正中で切開し, lateral approach を追加して, 瘤に到達した. 総大腿動脈, 浅大腿動脈は正常, 大腿深動脈は第一分枝が破裂し仮性動脈瘤を形成. さらに本幹が遠位側で瘤状となり筋層内へ破裂していた. 大腿深動脈を起始部で結紮後, 瘤を切除した. 大腿深動脈瘤は希な疾患であり, 文献的考察を加え報告した.
  • 高橋 賢二, 小田桐 聡, 長尾 好治
    1996 年 25 巻 3 号 p. 189-191
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    結核菌による感染性心内膜炎 (IE) は非常に稀な疾患である. われわれは同疾患により重篤な心不全を伴った大動脈弁閉鎖不全症 (AR) にたいし緊急手術にて救命しえた1例を経験した. 症例は56歳男性で1990年9月より1992年10月まで肺結核にて加療した既往歴がある. 約1年後に発熱を伴う心不全症状を呈し某市立病院に入院し精査の結果ARの急性増悪として紹介された. 心不全症状が強く, 内科的治療は無理と判断し緊急手術を行った. 弁の荒廃は著しく3弁とも弁尖に vegetation が付着していた. 幸い弁輪部では病変は少なく25mmのSJM弁で置換した. 術後経過は良好で29日目に元気に退院した.
  • 渡邉 隆, 細田 泰之, 笹栗 志朗, 山本 晋
    1996 年 25 巻 3 号 p. 192-194
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    われわれは, 54歳の男性で突然の胸背部痛にて発症した Stanford A型急性大動脈解離症例に対し, 超低体温, 完全循環停止下に逆行性脳灌流法を併用し弓部置換術を施行した. 逆行性脳灌流中の中心静脈圧は20mmHg, 送血流量は毎分400ml, 最低直腸温は19℃であった. 逆行性脳灌流時間は135分に及んだが術後脳神経学的合併症を認めずに救命しえた. 超低体温下逆行性脳灌流法の安全限界はいまだ明らかではないが, これにより順行性脳循環停止時間を135分まで延長しうる可能性が本症例より示唆された.
  • 下川 智樹, 岡崎 幸生, 大坪 諭, 濱田 正勝, 片山 雄二, 樋口 真哉, 伊藤 翼
    1996 年 25 巻 3 号 p. 195-198
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    今回われわれは心房細動による心内血栓が原因と思われる急性大動脈閉塞症の2例を経験し, 迅速な診断治療にて救命しえたので報告する. 症例はそれぞれ58歳男性, 60歳女性. 発症より約5.5時間後, 4時間後に手術を行い, 血栓摘除術にて血行再建しえた. Myonephropathic metabolic syndrome (MNMS) 防止のため, 血行再建時におのおの約2,000ml, 1,000mlの瀉血を大腿静脈より行い, 潟血血液は自己血回収回路により洗浄赤血球とし輸血した. 術後ミオグロビン尿が疑われたが, 輸液, 利尿剤投与による尿量維持, 電解質補正, アシドーシス補正によりMNMSの発症は認めなかった. 再灌流直後の患肢静脈血瀉血と自己血回収回路による返血は有効であったと思われた.
  • 末田 泰二郎, 渡橋 和政, 三井 法真, 岡田 健志, 松浦 雄一郎
    1996 年 25 巻 3 号 p. 199-202
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    高位腹部大動脈閉塞を伴った2枝梗塞の59歳男性に対して, 左内胸動脈 (LITA), 右胃大網動脈 (RGEA) の動脈グラフトのみを用いた冠状動脈バイパス術と腹部大動脈-大腿動脈バイパス術を同時に施行した. IABPが必要となった際の挿入経路, 体外循環中の下肢灌流, LITAが左下肢動脈への側副血行路, 動脈グラフトのみを使用することを考慮して, 本症例では体外循環に先駆けてYグラフトによる血行再建術を行い, 引き続き冠状動脈バイパス術を行った. 体外循環時間の短縮, 下肢虚血防止に効果があり, 良好な結果を得た.
  • 野口 保蔵, 内藤 泰顯, 藤原 慶一, 東上 震一, 高垣 有作, 駒井 宏好, 広岡 紀之, 西岡 武彦, 川崎 貞男
    1996 年 25 巻 3 号 p. 203-206
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    腹部主要分枝再建を伴う広範囲胸腹部大動脈置換は根治的な術式であるが, 未だ多くの問題が残り, 手術適応には慎重でなければならない. われわれは2例の胸腹部大動脈瘤に, 人工血管置換術に加え腹部主要分枝部周囲に存在する比較的小さな大動脈瘤に対して wrapping を併用した. われわれの用いた wrapping 法は, 細いテフロンテープを用い, 包帯を巻くように瘤の wrapping を行うもので, 分枝を含んだ瘤でも分枝を温存して瘤壁を確実に補強できる利点を持っている. それぞれ術後3年5か月, 2年2か月の経過観察で, 瘤径の拡大を十分に防止していることが示された. 本法は大動脈瘤の wrapping 法としては有用な方法と考えられる.
  • 野坂 誠士, 中山 健吾, 山内 正信, 具 光成, 斎藤 雄平
    1996 年 25 巻 3 号 p. 207-209
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は67歳, 男性. 3年前より再生不良性貧血にて治療中であった. 今回突然両下肢の虚血症状が出現し, 血管造影で高位腹部大動脈閉塞症と診断された. 閉塞は左腎動脈起始部まで及んでおり, 腎不全を合併していた. 手術は右腋窩動脈-両側大腿動脈バイパス術を行った. 術後は腎不全に加え, 再生不良性貧血に伴う出血傾向, さらにDICを併発したが, 厳重な管理にて救命できた.
  • 西牧 敬二, 荒井 正幸, 浦山 弘明, 川崎 誠治
    1996 年 25 巻 3 号 p. 210-212
    発行日: 1996/05/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    右人工股関節置換術後に急性動脈閉塞症を伴って発生した右仮性大腿動脈瘤の1例を報告した. 症例は59歳, 女性. 関節リュウマチによる変形性股関節症に対して行われた右人工股関節置換術2か月後に急性動脈閉塞を起こし, 右下腿切断となり, その後より右鼠蹊部に拍動性腫瘤を生じ, 当院へ紹介入院した. 人工骨頭が前内側へ偏位し, 骨頭のセメントが変形し, 右大腿動脈を損傷し仮性動脈瘤が生じ, 瘤内に形成された血栓により右下肢動脈の血栓塞栓症を引き起こしたものと思われた. 股関節置換術においては解剖学的には大腿動脈損傷が十分起こりうることを認識すべきである.
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