抄録
症例は68歳の女性で, ショックを伴う喀血を主訴に来院した. 保存的治療で軽快したが, その後の精査で下行大動脈瘤の左肺内穿破と診断され, 下行大動脈人工血管置換術を施行した. 術中所見からは, 動脈硬化で脆弱となった動脈壁が血圧負荷により破裂した, 特発性下行大動脈破裂が疑われた. さらに, 破裂後仮性瘤を形成し肺内穿破したと推察された. 手術に際しては, 癒着した仮性瘤と肺に操作を加えなかったことで術後肺合併症や感染症を予防でき, 治癒せしめた. 特発性大動脈破裂は稀であり, 特殊な経過をとった症例を経験したことから若干の文献的考察を加えて報告した.