抄録
症例は22歳男性.強度の漏斗胸,僧帽弁閉鎖不全症に,Stanford A型大動脈解離を合併したMarfan症候群に対して一期的に上行大動脈人工血管置換術,僧帽弁置換術,胸骨翻転術を行った.漏斗胸を合併する長時間の大血管手術では,術視野の確保や術後の循環動態の安定のため一期的手術が望ましいとされているが,一方では胸骨感染の危険が高くなるという問題が生じる.このためわれわれは胸骨への血流を保持できるという利点のある腹直筋有茎性胸骨翻転術を選択した.胸骨翻転術を選択したことにより術中良好な視野を得ることができ,また閉胸後の循環動態もきわめて安定していた.しかし術後落痛のために局所の安静が保てず,胸骨動揺を認めたため第7病日に胸骨再固定術を必要とした.腹直筋有茎性胸骨翻転術を選択したことにより,胸骨への血流は保たれ,長時間の手術に耐えうることができたが,十分な疼痛対策と局所の安静もきわめて重要であると考えられる.