抄録
遊離球状血栓症は希な疾患であり,とくに僧帽弁置換術後の報告は少ない.症例は58歳,男性.1981年に僧帽弁置換術を受けていた.貧血の精査で出血性胃悪性腫瘍を発見され,抗凝固療法を中止された.当科紹介時に左心耳内に血栓を認めたが,人工心肺中の胃癌からの出血が危惧され,まず胃全摘術を施行された.術後腸閉塞,誤嚥性肺炎,人工呼吸器装着を契機に左心耳内の血栓がはずれ,遊離球状血栓となったが緊急手術により救命しえた.遊離球状血栓の発生機序はいまだ明確ではないが,今回,左心耳より遊離する過程を観察し,その発生機転を確認できた僧帽弁置換術後の左房内球状血栓の1例を経験したので報告する.