抄録
当科で行っている弓部大動脈瘤手術の脳保護法,末梢吻合における工夫について報告する.対象は1997年2月から2001年10月までに施行した弓部大動脈瘤手術32例.疾患の内訳は真性瘤18例,解離性大動脈瘤13例,仮性瘤1例で,緊急症例を9例含む.脳保護法は順行性脳灌流(SCP)と逆行性脳灌流(RCP)を組み合わせて用いている.つまり循環停止後,瘤を切開すると同時にRCPを開始,病変を検索し1分枝以下の再建ならRCPのまま手術を進め,2分枝以上の再建が必要ならRCP下に血液を逆流させながら弓部分枝にカニュレーションしSCPに移行する.また末梢側吻合の工夫として,急性解離ではadventitial inversion法,真性瘤では自己心膜を大動脈内面に補填することで止血の補助とした.最近の10症例ではカフ付きグラフト法を用いており,これにより手技的に非常に容易となり,すばやく確実な吻合が可能である.以上の方針の結果,術後覚醒時間8.7±1.4時間,病院死2例(6.3%),脳合併症2例(6.3%)であった.弓部大動脈手術の手術成績向上には安定した脳保護法の確立と,迅速で確実な末梢吻合を行うことにある.今回報告した脳保護法,末梢吻合における当科の方法は手術成績からみて有用である.