2006 年 35 巻 3 号 p. 136-139
1999年から2004年に体外循環を用いて行った心臓血管外科領域の手術337例中,130例(38.6%)で大腿動脈送血を行ったが,うち3例(2.4%)で術後送血側の下肢にcompartment症候群を合併した.3例はいずれも60歳未満の男性であり,下肢の虚血時間は240~294分であった.このうち2例でmyonephropathic metabolic syndrome (MNMS)に陥ったため持続的血液濾過透析(CHDF)による血液浄化を行った.その結果1例は独歩退院したが1例を失った.Compartment症候群とそれによるMNMSは重大な合併症であり,治療以前にその発症を予防することがきわめて重要である.本邦報告例からは若年男性での発症が多く,そういった症例ではとくに慎重に対応すべきである.大腿動脈送血を行っている間の下肢虚血を予防するためには,遮断鉗子により側副血行路となる大腿深動脈や浅大腿動脈の血流を障害しないように注意し,大腿深動脈からのback flowが不十分と判断した場合は末梢側の送血を行い,虚血を回避することが重要である.