日本心臓血管外科学会雑誌
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35 巻, 3 号
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  • 東田 隆治, 浅井 徹, 白石 昭一郎, 松林 景二, 西 崇男, 黒川 正人
    2006 年 35 巻 3 号 p. 127-131
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    心臓大血管術後の創感染に対し,vacuum-assisted closure (VAC)療法を採用した.2004年3~12月に発生した術後胸部正中創感染の9例を対象とした.8例が男性,1例が女性で,平均年齢は69.6歳,7例が心拍動下冠動脈バイパス術後,2例が弁置換術後であった.糖尿病を6例,慢性腎不全を5例(うち透析患者4例),慢性閉塞性肺障害を2例に合併していた.6例が表層感染,3例が深部感染(胸骨離開)であった.創感染の兆候がみられただちに開放創とし,洗浄とデブリードマン後,VAC療法を開始した.表層感染の症例では速やかに創培養が陰性となり,早期のwound closureにより閉創が促進された.深部感染の症例では,発熱や炎症反応は比較的早期に治まったが,創培養陰性までには2ヵ月程度要した.1例はVACのみで閉創治癒したが,2例は腹直筋皮弁あるいは大胸筋皮弁を用いて閉創した.VAC療法は創治療の閉鎖法と開放法の利点を兼ね備えており,持続吸引により,浸出液,膿が吸引され,肉芽形成が促進されるので,速やかに炎症反応が低下し,表層の感染が縦隔洞炎に進展することが予防された.また,週2~3回の交換でよいので患者や医療スタッフの負担を軽減することができた.
  • 伊藤 学, 古川 浩二郎, 岡崎 幸生, 大坪 諭, 村山 順一, 古賀 秀剛, 伊藤 翼
    2006 年 35 巻 3 号 p. 132-135
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    鈍的外傷による心破裂の救命率は低い.救命率の向上のためには診断,治療方針を明確にする必要がある.われわれは鈍的外傷による心破裂例8例を経験した.来院時,全例経胸壁心エコーにより心嚢液貯留を認め,心タンポナーデの状態であった.受傷から来院までの平均時間は186±185分,来院から手術室搬入までの平均時間は82±49分.術前に心嚢ドレナージを行ったのは2例,経皮的心肺補助装置を使用したのは2例であった.破裂部位は,右房3例,右房-下大静脈1例,右室2例,左房1例,左室1例であった.4例に体外循環を用い損傷部位を修復した.8例中6例を救命することができた(救命率75%).診断において経胸壁心エコーが簡便かつ有効であった.多発外傷例が多いが,心タンポナーデによるショック状態を呈している場合,早急に手術室へ搬送すべきである.手術までの循環維持が重要であり,心嚢ドレナージ,PCPSが有効である.
  • 塚本 三重生, 進藤 正二, 長 伸介
    2006 年 35 巻 3 号 p. 136-139
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    1999年から2004年に体外循環を用いて行った心臓血管外科領域の手術337例中,130例(38.6%)で大腿動脈送血を行ったが,うち3例(2.4%)で術後送血側の下肢にcompartment症候群を合併した.3例はいずれも60歳未満の男性であり,下肢の虚血時間は240~294分であった.このうち2例でmyonephropathic metabolic syndrome (MNMS)に陥ったため持続的血液濾過透析(CHDF)による血液浄化を行った.その結果1例は独歩退院したが1例を失った.Compartment症候群とそれによるMNMSは重大な合併症であり,治療以前にその発症を予防することがきわめて重要である.本邦報告例からは若年男性での発症が多く,そういった症例ではとくに慎重に対応すべきである.大腿動脈送血を行っている間の下肢虚血を予防するためには,遮断鉗子により側副血行路となる大腿深動脈や浅大腿動脈の血流を障害しないように注意し,大腿深動脈からのback flowが不十分と判断した場合は末梢側の送血を行い,虚血を回避することが重要である.
  • 六鹿 雅登, 玉木 修治, 横山 幸房, 横手 淳, 石本 直良
    2006 年 35 巻 3 号 p. 140-143
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    HIV(human immumdeficiency virus)陽性患者に対し体外循環を用いた冠動脈バイパス手術症例を経験した.症例は68歳,男性.平成6年より狭心症に対し,当院循環器科で経過観察されていた.平成16年4月左冠動脈主幹部の狭窄の進行を認め,手術適応とされた.術前感染症スクリーニング検査(EIA法)でHIV陽性であり,精査でHIV-I陽性と診断された.後天性免疫症候群AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)の発症はなく,CD4 count,HIVウイルス量の結果に基づき手術適応と判断した.術中は従来の感染症患者に準ずる感染対策に基づき定型的手術を施行した.術後は,免疫不全に基づく合併症もなく経過良好で術後12日目に退院した.
  • 石神 直之, 堀場 公寿
    2006 年 35 巻 3 号 p. 144-146
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.1974年,他病院で大動脈弁狭窄症に対しStarr-Edwards弁(SE弁)(model 2320)による大動脈弁置換術を施行された.1989年,当院で僧帽弁狭窄症に対し経皮経管僧帽弁交連切開術(PTMC)を施行した.2003年12月,NYHA III度の心不全で入院した.心エコーで僧帽弁狭窄,置換大動脈弁狭窄の進行を認めた.2004年1月,僧帽弁はCarbo Medics,大動脈弁はBICARBONを用いた2弁置換術と三尖弁輪縫縮術を施行した.SE弁はケージ内側の被覆布の破損(cloth wear)とパンヌス増生を認めた.患者は退院し,元気に社会復帰している.
  • 田村 敦, 高原 善治, 茂木 健司, 勝股 正義
    2006 年 35 巻 3 号 p. 147-150
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    上行弓部全人工血管置換術後の縦隔洞炎を2例経験した.症例1は急性大動脈解離で上行弓部全置換術を施行し,術後12日目に感染性心嚢液貯留を認め再開胸した.術中迅速検鏡により人工血管感染は否定的であったため,一期的に洗浄,大網充填し閉胸した.症例2は胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤に対し,二期的に人工血管置換術を施行した.術後73日目に胸部正中創からの浸出液にて発症した.再開胸すると心嚢閉鎖用Gore-Tex sheetの表面全体に膿汁を認め,人工血管にも感染が及んでおり,開胸のまま6日間洗浄し菌培養陰性化をしてから大胸筋充填し閉胸した.胸部大動脈人工血管置換術後の縦隔洞炎は難治性で死亡率の高い合併症であり治療方針決定は困難であるが,人工血管感染が疑われない場合は一期的な閉胸,疑われる場合は洗浄して減菌を試みたのち,二期的な閉胸が望ましいと考えられる.
  • 小林 俊郎, 林 研二, 阪田 健介, 小林 百合雄
    2006 年 35 巻 3 号 p. 151-154
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    新生児期発症の解剖学的肺動脈閉鎖を伴った重症Ebstein奇形の1手術例を経験したので報告する.症例は生後8日の女児,39週4日自然分娩で出生,生直後より心雑音,チアノーゼを認め,心エコーでEbstein奇形,肺動脈閉鎖と診断された.LipoPGE 1を投与し動脈管を開存させ,肺血流を確保しつつ心不全治療を行ったが,心不全が増強するため出生後8日目に手術を行った.手術は体外循環下に三尖弁口閉鎖,心房間交通作製,右房縫縮を行った.生後60日目にBlalock-Taussig変法を行ったが,心不全のため強心剤からの離脱ができなかった.生後10ヵ月目に両方向性Glenn手術を行い,軽快退院した.2歳6ヵ月時にtotal cavopulmonary connection (TCPC)を行った.術後18ヵ月の現在も元気に日常生活を送っている.
  • 新鮮自己心膜を用いたsurgical ostial angioplasty
    大岡 智学, 牧野 裕, 村上 達哉
    2006 年 35 巻 3 号 p. 155-159
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    梅毒性大動脈炎(SA)に伴う左冠動脈入口部狭窄および大動脈弁閉鎖不全症(AR)に対し,新鮮自己心膜を用いた入口部形成術および大動脈弁置換術を施行し良好な結果を得た.症例は50歳,男性.慢性心房細動,多発性脳梗塞の精査中,左冠動脈入口部90%狭窄,AR III度および左心耳血栓を認めた.活動性感染兆候は認めないが,血清学的にTPHA抗体価10,387倍,RPR定性陽性であった.CTでは上行大動脈は正常であったが,術中所見で大動脈周囲の炎症性変化を認めSAが示唆された.上方アプローチで左冠動脈主幹部を切開し新鮮自己心膜パッチを縫着,機械弁で大動脈弁置換を施行した.術後経過は良好であった.組織学的所見はSAに一致し,免疫組織学的に梅毒トレポネーマを認めた.臨床上希だが大動脈弁閉鎖不全と冠動脈入口部狭窄の合併は,SAの可能性を考慮すべきである.本術式をSAに対して用いた報告はなく慎重な経過観察が必要である.
  • 桑原 史明, 平手 裕市, 杉浦 友, 高野橋 暁, 八神 啓, 石本 直良, 吉川 雅治, 浅井 忠彦, 宮田 義彌
    2006 年 35 巻 3 号 p. 160-163
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,男性.1987年に感染性心内膜炎に対し大動脈弁置換術を施行した.2004年5月に胸部レントゲン写真で上縦隔の拡大を認め,造影CTで前回手術時に送血管を挿入したと思われる上行大動脈の部位に嚢状動脈瘤を認めた.大動脈瘤は胸骨に接していたため,手術は大腿動脈送血・大腿静脈脱血の体外循環を開始したのち,胸骨を正中切開した.上行大動脈に直径60mmの仮性動脈瘤を認め,瘤の頂点にはフェルトの遺残がみられた.超低体温下循環停止として瘤を切開し,瘤の大動脈への開口部をパッチ閉鎖のうえ,瘤壁を縫縮するように閉鎖した.術後はとくに問題なく経過した.病理所見では,瘤の頂点部に認められたフェルトは,その中心部において血管壁はきわめて菲薄化していたためにフェルトが瘤壁のほぼ全層を占め,血管内腔に露出しているようにみえる部分も存在した.経過,手術所見,病理所見で非感染性の仮性動脈瘤であると診断された.術後約17年後という遠隔期に発生し,手術適応となった仮性動脈瘤の症例であった.
  • 郷田 素彦, 井元 清隆, 鈴木 伸一, 内田 敬二, 初音 俊樹, 高梨 吉則
    2006 年 35 巻 3 号 p. 164-167
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.脳梗塞で他院入院中に39度台の発熱を認め,造影CTで腕頭動脈仮性瘤と心嚢液を認めたため,当院に転院となった.心嚢穿刺液培養検査で黄色ブドウ球菌を検出した.感染性腕頭動脈仮性瘤と診断し,術前約2週間にわたる抗生剤の投与で炎症反応が改善したのち,手術を施行した.超低体温,循環停止下で瘤を切開すると腕頭動脈起始部に径2cmの欠損孔を認めた.パッチ閉鎖可能と判断し,右腋窩動脈を約3cm採取し自家動脈パッチを作製しパッチ閉鎖した.腋窩動脈は端々吻合で再建した.術後は抗生剤の全身投与に加え,閉鎖式縦隔洗浄で感染コントロールを施行した.術後160日目に軽快退院し,感染再燃の兆候はない.
  • 園田 拓道, 城尾 邦彦, 梅末 正芳, 松崎 浩史, 松井 完治
    2006 年 35 巻 3 号 p. 168-172
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    左室心筋緻密化障害は,胎生期において左室心筋の緻密化の過程が障害されて起こる先天性心筋症の一つであり,心不全発症後の予後は不良である.本症は新生児・乳児期の重症心不全の原因として知られてきたが,最近成人期に発見される例が散見されるようになった.しかし,本疾患を合併した弁膜症患者に開心術を行った文献的報告はなされていない.今回われわれは,左室心筋緻密化障害を伴う重度の連合弁膜症症例に対し,二弁置換術を施行したので報告する.症例は62歳,男性.左室心筋緻密化障害およびIV度の大動脈弁・僧帽弁閉鎖不全症により心不全を発症し入院した.保存的治療により可及的に心不全をコントロールしたのち機械弁による大動脈弁・僧帽弁置換術を施行した.術後急性期の経過は良好で心機能の著明な改善を認め,術後34日目に退院した.今後は左室心筋緻密化障害による慢性期の心機能低下について慎重な経過観察が必要である.
  • 高橋 皇基, 佐戸川 弘之, 高橋 昌一, 佐藤 洋一, 小野 隆志, 高瀬 信弥, 若松 大樹, 佐藤 善之, 横山 斉
    2006 年 35 巻 3 号 p. 173-176
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    急性大動脈解離により発症した対麻痺に対し脊髄ドレナージ(CFD)が有効であった1例について報告する.症例は80歳,男性.突然の胸背部痛と両下肢の脱力により発症した.CTによりStanford A型急性大動脈解離と診断した.上行大動脈から腹腔動脈分岐直上に及ぶ解離腔は血栓閉塞していた.両下肢の脱力は脊髄虚血による対麻痺と判断し,発症4時間後よりCFDを開始し,10cmH2Oに髄圧を保った.下肢脱力はCFD開始2時間後から徐々に改善し,32時間後にはほぼ完全に回復した.総ドレナージ量は280mlであった.以後対麻痺の再発は認めなかった.本症例により,急性大動脈解離に伴う対麻痺に対して,脊髄ドレナージが有効であることが示唆された.
  • 三浦 崇, 丁 毅文, 押富 隆, 佐藤 一樹, 橋本 宇史, 丁 栄市
    2006 年 35 巻 3 号 p. 177-182
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.拡張型心筋症(DCM)の診断で当院通院中であった.66歳時に心不全の悪化を認め,入院となった.入院時NYHAはIII度,BNPは373pg/mlであり,経胸壁心エコーでは左室拡大の進行(左室拡張末期径/左室収縮末期径84/74mm),EFの低下(21%),そして中等度の僧帽弁閉鎖不全症を認めた.心筋組織ドップラーエコー検査(Strain)では中隔と側壁の非同期収縮dyssynchrony(収縮時相のずれ332msec)と側壁の拡張期相内心筋収縮を認めた.薬物による心不全治療を強化したが,改善が乏しいため,心臓再同期療法(CRT)と前尖と後尖を温存した生体弁による僧帽弁置換術(MVR)を同時施行した.術後のCRT施行時のStrainでは,中隔と側壁の同期収縮(収縮時相のずれは34msecへ改善)と側壁の収縮期相内心筋収縮を認めた.術後15日目に独歩退院し,術後15ヵ月でNYHA I度となり,BNPは76.7pg/mlまで低下した.
  • 田邉 佐和香, 田中 國義, 井隼 彰夫, 森岡 浩一, 上坂 孝彦, 李 偉, 山田 就久, 高森 督, 半田 充輝, 今村 好章
    2006 年 35 巻 3 号 p. 183-187
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,男性.歯科治療経過中に,発熱,心不全が出現し,心エコー検査の結果,大動脈弁は二尖弁で疣贅と穿孔を認め,血液培養によりStreptococcus constellatusが検出され,感染性心内膜炎にともなう大動脈弁閉鎖不全症と診断された.また,胸部CTにより上行大動脈の拡大(5.0cm)を認めた.心不全に対する薬物療法と抗生剤投与による感染の制御を行ったのち,入院60日目に手術を施行した.疣贅をふくめて弁尖を切除し,機械弁により人工弁置換術を施行,同時に人工血管を用いて上行大動脈を置換した.また,右冠動脈起始異常を認めたため,これをCarrel patch法により人工血管に縫着,再建した.切除した大動脈壁の組織学的検査により中膜弾性線維の消失と粘液変性を認め,免疫組織化学染色により中膜にmatrix metalloproteinase-2の強い発現を認めた.術後経過は良好で,感染の再燃もなく,37日目に退院した.
  • 国井 佳文, 笠間 啓一郎, 郷田 素彦, 飛川 浩治, 磯松 幸尚, 寺田 正次, 高梨 吉則
    2006 年 35 巻 3 号 p. 188-191
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    右側大動脈弓に大動脈縮窄症を合併することは希で,また,新生児期に外科治療を行った報告例もわずかである.今回,われわれは右側大動脈弓に大動脈縮窄症を合併した両大血管右室起始症の新生児に一期的手術を行った症例を経験した.症例は生後27日,男児.動脈スイッチ,心室内血流路作製,異種心膜ロールによる大動脈弓部再建および自己心膜による右室流出路再建術を一期的に行った.術後,右室流出路に用いた自己心膜が拡大したため再度右室流出路再建術を行ったが軽快退院した.
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