1993 年 12 巻 2 号 p. 139-146
アパタイト焼結体を乳酸で部分溶解した場合のMn2+のESRシグナル強度変化および走査型電子顕微鏡観察から, ハイドロキシアパタイト(HAp)の焼結機構について検討した.
焼成後のアパタイト粒子を乳酸で溶解した場合のMn2+のESRシグナル強度は, 焼成温度が低い場合, 溶解が進行すると急激に減少するが, 焼成温度が高い場合には, ほとんど減少しなかった.このことから, 加熱による熱反応は, 焼成温度が低い場合, 粒子表層部だけで起こり, 焼成温度の上昇に伴って粒子内部まで均一に進行することがわかった.また, 溶解前および溶解後のアパタイト粒子の走査型電子顕微鏡観察からも, 焼成温度が低い場合の焼結は, 粒子表層部あるいは隣接した粒子界面だけで起こることがわかった.この結果から, Mn2+を指標にしたESR測定によって, アパタイトの焼結機構を模式図として示すことができ, これは従来から考えられているセラミックスの焼結理論とも一致した.また, ESR測定は, アパタイトに限らず他のセラミックスの焼結機構の解明にも応用できることが示された.