抄録
4CPセメントとα-TCPセメントの硬化体をDulbeccoのリン酸緩衝塩類溶液(PBS(+))中に浸漬し, その経時的変化について, X線回折, 走査型電子顕微鏡による観察およびCaとPの定量分析を行い比較検討した. 硬化直後の4CPセメントおよびα-TCPセメントは, 練和前の4CPおよびα-TCP粉末に比べて回折線が全体にブロードになっていたことから, 硬化体中にアモルファスなリン酸カルシウムが増加したことが示唆された. 4CPセメントもα-TCPセメントも硬化体をpHが中性領域のPBS(+)中に浸漬することにより, 硬化体表面に水酸化アパタイト(HAp)がC軸方向に配向しながら生成した. α-TCPセメント硬化体の表面にはHAp以外に, リン酸水素カルシウム2水和物(DCPD)の形成が認められたが, 走査型電子顕微鏡による観察ではDCPDの表面も浸漬6日後にはHApに転換したような像が認められた. セメント硬化体表面のHApへの転換は, 4CPセメントのほうがα-TCPセメントよりも速やかであるように思われた. セメント硬化体を粉砕して得た粉末のX線回折像および硬化体中のCaとPの含有量の定量分析から, セメント硬化体のHApへの転換はPBS(+)に接している硬化体の表面から生じ, 6日間の浸漬ではHApへの転換は硬化体の表層のみに限局していたことが明らかとなった. しかしPBS(+)中の総Ca量と総P量の変化を調べた結果, 4CPセメントでもα-TCPセメントでも硬化体のHApへの転換が浸漬6日後にもなお進行中であったことが推察された.