抄録
本研究の目的は被着合金の種類, 被着合金表面の酸化処理およびセメントの被膜厚さが合着用セメントの接着強さに及ぼす影響について検討することである.実験には4種類の合着用セメント(リン酸亜鉛セメント, カルボキシレートセメント, グラスアイオノマーセメント, 接着性レジンセメント)と4種類の歯科用合金(Au-Ag-Cu合金, Ag-Pd合金, 酸化処理したAg-Pd合金, Ni-Cr合金)を使用した.各合金について円柱状試料を作製し, 作製した試料を被膜厚さコントロール装置を用いて突き合わせ接着を行なった.なお, セメントの被膜厚さは20, 30, 50, 75, 100μmにコントロールし, 接着操作から24時間経過後の接着強さを引張接着試験法により測定した.その結果, リン酸亜鉛セメントに関しては蒸留水浸漬中に試料が剥離し, 引張接着試験を行なうことができなかった.各合金に対して, 接着性レジンセメントが最も大きな接着強さを示し, グラスアイオノマーセメントが最も小さな接着強さを示した.被着合金の種類ではNi-Cr合金が各セメントにおいて最も大きな接着強さを示した.セメントの被膜厚さが増加するにつれて, 有意に各セメントの接着強さが減少した.被膜厚さを変化させた場合にも接着性レジンセメントが最も大きな接着強さを示し, グラスアイオノマーセメントが最も小さな接着強さを示した.また, Au-Ag-Cu合金およびAg-Pd合金に対する接着性レジンセメントの接着強さは酸化処理により有意に増加した.今回使用したセメントでは, 接着性レジンセメントが最も被膜厚さの影響を受けやすく, カルボキシレートセメントが最も影響を受けにくかった.加えて, 貴金属合金表面の酸化処理は接着性レジンセメントの接着強さを増加させる1つの因子であった.