発達心理学研究
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挑発行為を頻発した自閉症幼児における他者理解の障害と発達
別府 哲
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1999 年 10 巻 2 号 p. 88-98

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抄録
自閉症の問題行動に, 「他の人の怒りを引き出すことを明らかな目的として, 執拗になされる行為」 (杉山, 1990) としての挑発行為がある。挑発行為は一方では, 他の人の怒りを理解した上での行動として他者理解と関運しており, またネガテイブではあるが社会的相互作用行動の一形態とも考えられる。本研究では, 一時期挑発行為を頻発した就学前の自閉症児A児 (CA2;11〜6;5) を取り上げ, 社会的和互作用行動と他者理解の側面から事例検討を行い, 挑発行為の意味を検討した。結果は以下の通りである。(1) 社会的相互作用行動を, 始発するのが大人かA児か, そして相手の行動を引き出すために行うのか情動や意図を引き出すために行うのかで, 第I〜IV期の4つの時期を抽出した。(2) A児が始発するがまだ相手の行動を引き出すために社会的相互作用行動を行う第皿期に, 挑発行為が出現した。(3) 第IV期になると相手の意図や情動を引き出すための社会的相互作用行動が出現した結果, 挑発行為は消失し, 代わりにからかい行動が出現した。(4) 他者理解を検討したところ, 第III期には行為者としての他者理解が成立するが, 第IV期にみられる情動や意図を有する主体としての他者理解はまだみられず, その意味で第III期に特徴的にみられた挑発行為は, 他者の情動や意図を理解していないがゆえの行動と推察された。
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© 1999 一般社団法人 日本発達心理学会
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