抄録
本研究では,「見ること-知ること」課題に含まれる実行機能的な要素に着目した。先行研究では,課題に含まれるこうした要素に着目しておらず,行為反応と行為を伴わないで正しく自分や他者の心的状態に言及する反応(自分は「知っている」,他者は「知らない」)を区別してこなかった。本研究では,この二つの反応を質的に異なる反応として区別し,後者の反応のみを正答とした。実験では,90名の3〜6歳児を対象にした。まず,参加児と他者(実験補助者)が対面し,その後,参加児は対象の隠される場面を見て,他者は後を向いて隠し場所を見なかった。参加児には,自分と他者のそれぞれが隠し場所を知っているか否かを尋ねた。その結果,(1)3〜4歳児では行為反応が多数現れるが,5〜6歳になると行為を伴わないで正しく心的状態に言及するようになること,(2)自分について「知っている」と答えることと,他者について「知らない」と答えることの間には困難さの違いはないこと,(3)隠された対象の知覚的手がかりを減少させた課題では,正答率が上昇すること,(4)「見ること-知ること」課題と心の理論課題(誤信念課題)の間には発達的関連があること,以上の4点が示された。以上から,「見ること-知ること」の関係を理解する発達的プロセスは行為反応から,行為を伴わないで正しく心的状態を言及できるようになる発達的プロセスとして描けることが示唆された。