抄録
本研究では,保育園年少児と年中児(3〜5歳)を対象に他者の視線方向による標的刺激への定位反応への影響を調べた。さらに,そうした影響の発達的な変化を構成論的アプローチによりモデル化し,コンピュータ・シミュレーションによって検討した。対象者自身の視線を測定指標とした場合,他者の視線方向の影響は新生児期から見られる。しかし,本研究では手がかりパラダイムを用いることで,行動を指標とした場合,標的刺激への定位に関して,年中児では視線方向の影響が見られたが,年少児では見られないという実験データを得た。この結果は3〜5歳の間に視線方向の影響が生じない状態から生じる状態への移行が見られることを示している。そこで,その移行の原因を年齢とともに漸増する注意の移動の縮小と4歳半ころに生じる注意の範囲の急激な拡大の発達的変化と想定した計算論的なモデルを構成した。このモデルについてコンピュータ・シミュレーションを行ったところ,実験データとほぼ同様のデータが示され,想定した計算理論的モデルの妥当性が示唆された。