発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
原著
児童・生徒の慢性的な心身の不調感・不快感の実態とその要因について:小・中学生の大規模調査から
瓜生 淑子
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2018 年 29 巻 2 号 p. 61-72

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抄録

小・中学生約3,000人に対して慢性的な心身の不調感・不快感を質問紙法で尋ね,因子分析によって「疲労感」「集中不全感」「イライラ感」「抑うつ感」の4因子を得た。そこから,1)4因子の関係性については,「疲労感」が他の3因子に影響を与え,加えて,学業にかかわる因子と解釈された「集中不全感」も,「イライラ感」「抑うつ感」に影響を与えているというモデルが採択された。2)その「疲労感」には,睡眠時間や朝食摂取状況などから合成された「生活実態」変数が説明変数となるモデルを示し,短眠化などの生活習慣上の問題が規定しているとした。3)因子に対応する4つの下位尺度得点について3要因(学校種・性・家庭の文化階層)の分散分析を行うと,いずれの得点も概ね,中学生・女子の方が高かった。しかし家庭階層については交互作用があり,心身の健康に及ぼす階層の影響は小中学生で異なるという二面性が指摘された。小学生では家庭階層下位群の生活習慣の問題が疲労感を高め,そのことが心身の不調感・不快感全体に結びついていると解釈された。これに対し,中学生では家庭階層上位群の不調感・不快感の下位尺度得点が上昇し,階層差が有意ではなくなった。家庭階層上位群の中学生の場合,高い学業達成期待に起因する心的負荷や勉強時間の増大による生活時間の圧迫が,「疲労感」や「集中不全感」を上昇させ小学生で見られていた家庭階層差を消失させると解釈された。

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© 2018 一般社団法人 日本発達心理学会
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