発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
原著
お金の支払い学習における中度知的障害生徒の学習過程と教師のフィードバック:社会文化的アプローチから
楠見 友輔
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2019 年 30 巻 2 号 p. 101-112

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抄録

本研究の目的は,社会文化的アプローチの観点から中度知的障害生徒の学習過程と,学習を促す教師のフィードバックの特徴を明らかにすることである。1名の中度知的障害生徒を対象とし,知的障害特別支援学校における7日間の数学の授業をビデオカメラで記録し,示された商品の「ちょっと上」の硬貨でお金の支払いをする課題における教師と生徒の相互行為を分析した。結果として,対象生徒は授業開始時には失敗を避けるために教師の表情をうかがったり友達の答えを模倣したりする行為を多く行っていたが,教師による生徒の学習意欲を維持しながら自分で考えることを促すフィードバックが,それらの行為を自分で考えて課題を解決する行為に変える機能を有していたことが明らかになった。対象生徒の学習については以下の2つの特徴が明らかになった。第一に,授業の開始から対象生徒が自分で考えて課題に取り組むようになるまでと,考えた行為が正答に結びつくまでに2つのタイムラグがみられた。第二に,学習の成果は環境的・心理的な要因とメタ認知機能の制約によって完全な理解としては現れなかったが,対象生徒が考えて課題に取り組むという正答可能性の向上として現れた。これらの結果は,知的障害生徒の主体性に基づく学習においては,生徒の学習を長期的な視点から支援し,正答率にではなく正答可能性の向上に着目して評価するという学習過程に注目する視点が重要であることを示唆している。

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© 2019 一般社団法人 日本発達心理学会
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