2021 年 32 巻 1 号 p. 11-23
本研究の第1の目的は子どもの泣きを父親が解釈するまでの認知プロセスについて,「知覚」「状況」「解釈」のカテゴリー(小山・森山・小林・小原・西野,2020)を用いてそれらがどのようなプロセスで働くのか経時的に記述すると同時に各カテゴリーの配列にはどのようなパターンがあるかについて探索的に検討をすることであった。そして目的1で明らかとなった認知プロセスのパターンに基づいて,それらの発達の様相を明らかにすることを第2の目的とした。対象は10組の夫婦で子どもはすべて第一子であった。父親の泣きの認知プロセスは消去法的認知プロセス,反復的認知プロセス,解釈先行的認知プロセス,ルーチン的認知プロセス,試行錯誤的認知プロセス,認知処理なしの6つに分類された。認知処理なし以外の認知プロセスは,いずれもカテゴリーの配列は異なるが「知覚」や「状況」から泣きを「解釈」するものであった。各認知プロセスの特徴として,消去法的認知プロセスと反復的認知プロセスは2ヵ月に多く,解釈先行的認知プロセスとルーチン的認知プロセス,試行錯誤的認知プロセスは4ヵ月に多い傾向があった。さらに4ヵ月の父母在室において父親はスムーズに泣きを解釈するが,父在母不在では試行錯誤して解釈する傾向があった。これらの結果から2ヵ月から4ヵ月にかけて泣きに対する父親の認知プロセスの様相が変化すること,その変化に母親の役割が重要となることが示唆された。