発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
原著
典型発達者における自閉スペクトラム症理解と自己肯定意識との関連:自閉スペクトラム症者とのグループワーク実践をとおした変容
滝吉 美知香田中 真理
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2021 年 32 巻 1 号 p. 24-36

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抄録

本研究では,典型発達(TD)者における自閉スペクトラム症(ASD)理解と自己肯定意識との関連を検討した。研究Iでは,大学生189名を対象にASD理解と自己肯定意識を調査した結果,ASDの障害特性のひとつであるコミュニケーションの苦手さに対する理解が高いほど,TD者自身が他者との関係のとり方に対し敏感に自分自身を評価することが示された。他者との関係に積極的な自分を肯定的に評価するか,閉鎖的な自分を否定的に評価するかについて,TD者のパーソナリティ要因と絡めて考察した。研究IIでは,ASD者とともに心理劇的ロールプレイングを行うグループワークに約1年間参加した高校生TD者9名を対象に,ASD理解と自己肯定意識との関連の変化を検討した。その結果,活動後にASD理解得点が低下し,ASD理解の下位領域と相関する自己肯定意識の下位領域にも変化が示された。具体的には,ASD特性としてのコミュニケーションの苦手さに高い理解を示しながら自分自身の他者との関係のとり方を肯定的にとらえていた対象者が,活動をとおして,ASD者のコミュニケーションの苦手さを環境要因や個人の多様性に結びつけ多元的にとらえ,自分自身の他者との関係性のとり方にも類似点があると理解するようになったことがうかがわれた。そのような変化の背景について,対象者が実際に示した活動での様子や発言の内容と併せて考察した。

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© 2021 一般社団法人 日本発達心理学会
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