発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
原著
自傷行為の複数の過程:青年期にある大学生の語りの分析
新井 素子
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2021 年 32 巻 3 号 p. 124-133

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抄録

自傷行為に対する援助のためには,行為の過程やそれに関わる要因について知ることが有用である。本研究では,自傷行為の体験者である青年期の大学生・大学院生の語りを分析して行為の過程やそれに関わる要因を知ることとした。22名の協力者に対して自傷行為の体験を半構造化インタビューにより調査し,得られたデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した。その結果,行為の開始からその帰結に至るまでの自傷行為の過程は,皮膚に現れた違和感を取り除く「除去型」と自分の身体を侵襲的に毀損する「侵襲型」の二系列に整理することができると考えられた。二つの過程には主に次の点で違いがあった。侵襲型の行為とは異なり,除去型ではエスカレーションが認められにくかった。除去型では侵襲型の行為に比べ,その行為に対して親子間の葛藤が結び付けられる傾向が見られた。除去型よりも侵襲型の方が代替手段による制御がしやすかった。もっとも,除去型から侵襲型に移行する場合もあるが,二つの過程は相対的には独立しているため,どちらかの系列の自傷行為を止めても他系列の行為は止めない可能性に留意すべきことが示唆された。除去型と侵襲型とでは,身体疎隔化の生じ方に違いがあると推察された。以上から,自傷行為への援助に当たっては,行為の過程やこれに関連する要因に応じた支援をすることが役に立つと考えられた。

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© 2021 一般社団法人 日本発達心理学会
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