本研究の目的は,2,3歳児を育児中の母親における,日々の子どもを叱るという行為とその日の否定的感情との関連を,日常的に抱く虐待不安や夫婦関係満足度,第二子の有無が調整することを示すことであった。2,3歳の第一子および第二子を育児中の母親99名(第一子53名,第二子46名)を対象に,ESMアプリ(Especially Me)を用いた調査を行った。具体的には,事前にWeb調査を通してリクルーティングを行った上で,参加者にはアプリインストール済みのスマートフォンを貸与し,それを用いて28日間毎晩22時から24時の間に一度だけ通知が来たタイミングで回答を求めた。その結果,日々の生活の中で子どもを叱るという行為は少なからず母親の否定的感情を予測していることが示された。一方,虐待不安,夫婦関係満足度,第二子の有無に関しては,子どもを叱るという行為とその日の否定的感情との関連の調整効果が示されなかった。育児中に否定的感情を抱くことは母親自身の育児への省察などを促すというポジティブな側面が指摘されている一方,育児自己効力感の低下といった精神的不健康につながる可能性が指摘されている。叱りに伴う母親たちの否定的感情を和らげることが,後の精神的不健康を予防する一助となる可能性が示唆された。