【要約】 三叉神経傷害による持続的な痛みをもつ患者が多い一方で, メカニズムの複雑さのために適切な診断や治療は困難である. 近年, 脊髄後角において, 末梢神経障害によりミクログリアの活性化やIFN-γ発現量の上昇を引き起こすことが報告されている. そこで眼窩下神経障害モデルラットを用いて, 口腔顔面領域における神経障害性疼痛へのIFN-γの関与を調べることを目的とした. ラットの左側眼窩下神経 (infraorbital nerve) を半結紮したIONIラットおよび眼窩下神経の剖出だけを行ったshamラットを作製した. 神経結紮前と結紮3日目に両ラットの三叉神経第2枝領域 (V2) に機械刺激を加え, 逃避反射閾値 (HWT) を測定した. また, 両ラットの三叉神経脊髄路核尾側亜核 (Vc) において, Iba1とIFN-γの陽性発現様式を免疫組織学的に検索した. さらに, 3日間, IFN-γまたはvehicleをラットのくも膜下腔内に持続投与し, HWTの変化を調べた. IONIのV2への機械刺激に対する神経結紮側のHWTは, 結紮3日目において有意に低下したが, shamラットでは変化は認められなかった. また, ラットの髄腔内にIFN-γを持続投与することにより, HWTの有意な低下が認められた. 神経結紮3日目のIONIラットの結紮側Vc表層において, ミクログリアのマーカーであるIba1の有意な増加が認められ, 増加したIba1上にIFN-γ受容体の発現が認められた. 以上より, IFN-γはVc領域で活性化されたミクログリアから放出され, 眼窩下神経障害により口腔顔面領域での痛覚過敏を引き起こす可能性が示唆された.