抄録
ワーキングメモリの概念を利用して,二重課題歩行特性と副次課題の成績との関係をモデル化し,過去の転倒経験を表す評価指標を提案する.11名の健常高齢者を対象に,都道府県名のような想起問題に回答しながら歩行を行う二重課題歩行実験を行い,問題の難易度と,爪先装着型慣性センサで測定した重複歩距離および歩行率を測定した.課題の難易度は,1秒あたりの問題の回答数と定義した.さらに,ワーキングメモリ内での歩行への注意および問題回答に要する占有率をモデル化し,課題の難易度の変化に対する歩行パラメータの変化の傾向を関連づける歩行注意係数を提案した.二重課題歩行実験の結果,転倒未経験者の歩行への注意度の占有率および提案した歩行注意係数は,転倒経験者より有意に大きくなることを確認した.このことから,提案した歩行注意係数は,転倒経験の有無を数値的に表す指標として利用可能である.