本研究の主な目的は,鉄道車両の客用扉の上部に設置され文章が横スクロール表示されるLED看板の読みやすさを調べることと,その読みやすさを評価するための主観的でない指標の有効性について調べることである.そのための実験を,6名の被験者を対象として行った.このLED看板の全幅は51.2 cmで,最大8文字の同時表示が可能である.各文字は16×16ドットであり,点灯中のドットはオレンジ色である.実験ではアイマークレコーダーを装着した被験者に,LED看板にスクロール表示された合文法無意味文を読み上げさせ,そして各文の主観的な速さと読みやすさを評価させた.試行の条件として,視距離,スクロール速度,文節数を変化させて繰り返した.結果は,以下のように要約できる.1)視距離72.1 cmと254.4 cmの違いは,主観的な読みやすさ等の評価値にほとんど影響しなかった.文節数3と5の違いは,主観的な読みやすさの評価値に影響し,後者の方が低く評価された.2)スクロール速度を2文字/秒から8文字/秒へと上昇させていくと,主観的な速さの評価値は直線的に上昇した.一方で主観的な読みやすさの評価値は,8文字/秒において有意に低下した.また,主観的な速さや読みやすさが一文字の幅(視角)にも影響されることが,示唆された.3)視線がLED看板の右半分に向けられている時間率は,スクロール速度の上昇に伴い,直線的に下降した.また同時間率には,誤読時に低くなる傾向が見られた.