2024 年 60 巻 4 号 p. 221-230
本研究の目的は,鉄道の運転における低速走行からの加速過程(約30 km/h)を対象に,異常事象を発見するために有効な視覚探索の特徴を明らかにすることであった.鉄道事業者の現役の運転士128名を対象とした異常時対応シミュレータ訓練のデータを用いた.運転シナリオは,「通常とは異なる係員による信号」や「低速での運転の指示」等の4つの軽微な事象に対応した後の加速過程において,事前に知らされていない重大な異常事象である隣接線の陥没を発見し停止するという課題であった.陥没箇所を発見し通り過ぎる前にブレーキをかけた運転士を「発見群」,陥没箇所を通り過ぎるまでにブレーキをかけなかった運転士を「非発見群」と分類した.両群の注視行動を比較した結果,発見群は,注視範囲が広く,自列車が走行している線路内だけでなく自列車付近の隣接線や線路外の風景も注視していた.